2024年8月5日 12:00 AM
個人の旅行計画を支援するサイトはトラベルテックにおいては最もホットな領域の1つだが、生成AIの登場でさらにその状況が加速している。
ニューヨーク・タイムズにAIを活用した旅行計画支援サイト(AIアシスタント)を利用したノルウェー旅行記が掲載された。記者は旅行計画を立てる時はオンラインで検索するが、今回はマインドトリップ、ヴァケイ、チャットGPTという3つのAIアシスタントで4日間の旅程を作成した。1年前にミラノ旅行で使ったチャットGPTより、今回のAIアシスタントははるかに洗練されていた。
旅行計画を立てるためAIを使用するケースは増えている。調査によれば米国人の70%が旅行計画にAIを使用するかその予定で、71%がAIを使う方が自分で計画するより簡単と答えたという。
最初に2つのAIアシスタントは、一人旅か、予算、ホテルと民泊どちらが好きか、自然探検か文化体験かなどの質問をしたが、チャットGPTは何も聞かなかった。
オスロの宿泊先を選ぶのは簡単ではなかった。AIアシスタントが重複することなく多くの選択肢を提案したからだ。オスロ1日観光の日程ではAIアシスタントの意見が一致。ヴィーゲラン彫刻公園、王宮、ノーベル平和センター、アーケシュフース城、ムンク美術館など名所が盛り込まれた。しかしホテルからの道順を聞いてもいまひとつで、グーグルマップ検索に頼らざるを得なかった。
フィヨルド地方への行き方については意見が分かれた。チャットGPTは7時間の列車の旅と2時間のフィヨルドクルーズに乗ることを提案した。マインドトリップはフィヨルドの玄関口ベルゲンまで飛行機、翌日クルーズという効率的な提案をしたが、世界で最も素晴らしい車窓を楽しめる列車の旅ができない。ヴァケイも列車の旅を勧めた。
記者はさらにAIアシスタントと相談して世界遺産ネーロイフィヨルドまで列車旅(6時間)をすることにしたが、列車の時刻表を自分で見つけ、ホテルの空き情報を調べざるを得なかった。旅の最終地ベルゲンでは、AIが提案した半日観光と地元産食材を使った完璧なディナーを楽しんだ。
どのAIアシスタントも完璧ではなかったが、互いに補完し合い旅程を効率よく決定できたとした。
22年11月にリリースされたチャットGPTは世界を席巻し、ティックトック(9カ月)やインスタグラム(2年半)よりはるかに速い2カ月でアクティブユーザー1億人を獲得した。生成AIはさらに進化し旅行計画支援は洗練されていくに違いない。その時、旅行のアドバイスを友人に聞くか、旅行会社に求めるか、それともAIに尋ねるか。
最後に記者は旅の要素であるセレンディピティ(偶然の産物)はAIでは今後も提供できないだろうと結んだ。AIアシスタントの開発がさらに進めば、旅のすべてを予測し計画できる「完璧な頼れる友人」になるかもしれないが、同時に旅は余白のない、計画を確認する行為になる。その時、私たちは旅を本当に楽しんでいるだろうか。
小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。
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