カスハラ対策 深刻化で体制整備待ったなし

2024.08.05 00:00

(C)iStock.com/DNY59

顧客等から著しい迷惑行為を受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題となるなか、企業や行政の対策が進展を見せている。企業に対策を義務付ける法制化の検討も進む。迷惑行為の発生するケースが多い観光産業でもカスハラ対策は待ったなしの状況だ。

 乗務員「冷たいお茶でございます」
 乗客「俺はジュースが欲しかったんだよ、ふざけるな!」
 乗務員「大変申し訳ございません。こちらのジュースでいかがでしょうか?」
 乗客「もういるわけないだろう、ふざけるな!」
 (コップを乗務員に投げつけ、身振りが大きくなる)

 これは先日、カスハラへの対応方針について共同記者会見を行ったANAグループとJALグループがまとめた事例の1つだ。十分にハラスメントな内容だが、厚生労働省がまとめた事例集には、コールセンターに繰り返し「殺すぞ」「センターに行く」などと暴言を繰り返した人物が、殺人予告等で逮捕され犯罪に至った事例まで掲載されている。

 このように企業や企業の担当者が顧客等から度が過ぎる迷惑行為にさらされるケースが近年目立っている。厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(23年度)によると、カスハラを受けた労働者は全労働者の10.8%を占め、パワハラより少ないが、セクハラよりは被害頻度が高い状況にある。また勤務日にほぼ毎日、顧客等に接している労働者に限れば、17.4%がカスハラ経験者。5人に1人近くがカスハラを受けているのは、かなりの高確率といえるだろう。

 カスハラは、それを受けた労働者のメンタルヘルスに深刻なダメージを与えている。実態調査によれば、被害者の63.8%が「怒りや不満、不安などを感じた」、46.1%が「仕事に対する意欲が減退した」としており、「眠れなくなった」(16.7%)や「通院したり服薬した」(3.8%)という者もいる。被害労働者の心身への悪影響が見て取れる結果だ。

 「顧客や取引先から無理な注文を受けた」「顧客や取引先からクレームを受けた」ことによる労災認定もあり、被害労働者が自殺に至ってしまった事例もある。23年9月には民間企業の労災認定基準が改正され、「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が追加された。また今年2月には国家公務員の公務上災害の認定指針も改正され、「公務に関する負荷の分析表」の出来事例として「組織外の者から業務に関連して迷惑行為を受けた」が明記された。いわゆるカスハラが労災と公務災害に認定されることになったわけだ。

 厚労省は対策の一環として、20年に告示した「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の中で、第1に労働者の相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、第2に被害者への配慮のための取り組み(メンタル不調への相談対応や1人で客対応させないなど)、第3にカスハラの実態把握やマニュアル作成・研修等を実施することの3点を求めている。ただし、あくまで努力義務としてであり、事業主が行うことが望ましい内容として示されているだけだ。

 22年には企業が取り組むべきことを取りまとめ、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」として発表したが、対策に法律上の義務はない。

 現在、法律に明記されているハラスメントは4つある。男女雇用機会均等法によって事業主による防止措置を義務付けているセクシャルハラスメントとマタニティハラスメント(妊娠・出産に関するハラスメント)、育児・介護休業法によって事業主による防止措置を義務付けているケアハラスメント(育児休業・介護休業等に関するハラスメント)、労働施策総合推進法によって事業主による防止措置を義務付けているパワーハラスメントだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年8月5日号で】

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