Travel Journal Online

人がつくる旅行業を思う

2024年7月29日 8:00 AM

 人手不足が社会問題となっている。特に旅行業界はコロナ禍で離職した人が多く、人材不足の影響でオフィスや店舗での営業時間制限などで乗り切るケースが多いと聞く。

 給料などの条件を大幅に改善しないと人材は集まらないのではないかと語る経営者が多い。現在の就活生は「給料が高い」「休みが多い」「仕事が楽」という条件で働く場を選ぶ傾向があるという。好きなこと、やりたいことをじっくり考え選択するより、周辺情報や友人の影響など、相対的な条件比較で仕事を選ぶ人が多いようだ。

 先日、パリの老舗ホテルがバーテンダーを募集したところ、「なるべくオンラインでの仕事を希望します」と履歴書のコメントにあったという。洋の東西を問わず、仕事に対する向き合い方が変わってきた。

 さらに深刻なのはすぐに辞めてしまうことだ。日経新聞の記事(5月8日)では新入社員の4割が転職を検討。しかも退職願いはメールや代行業者に依頼するケースが多いという。良しあしは別としてそれが現実だろう。

 コロナ禍の3年間、当社は苦渋の中で新卒募集を継続した。オンラインの普及で会社説明や面接も就活生が在宅のまま進めることができた。結果、いままで以上に遠方の北海道や九州在住の学生からも応募があった。恐らく多くの旅行会社が募集を中断したため、旅行業を希望する熱心な学生が集まってきたのだと思う。

 逆境の時期に旅行会社に就職希望を貫いた学生たちは自分の志を貫く覚悟のある若者なのだろうと感じた。実際に入社した彼らはいままさに生き生きと活躍し始めている。

 数年前からはインターンシップを行っている。学生時代から旅の仕事に志がある人を探すため、理解のある大学数校と連携している。今年は初めて産官学連携を模したインターンシッププログラムを実施した。大学だけでなくカナダ観光局に協力いただき、研修プログラムに参画いただいた。

 学生は旅行会社だけでなく、観光局という外部からのアドバイスも得られる。ちょうど研修期間中、渋谷のプラネタリウムを貸し切りにしてオーロラツアーをプレゼンテーションするイベントがあり、学生に会場の担当も体験してもらった。お客さまとのコミュニケーションを実体験する格好の機会となった。

 人手不足解消には学生たちに未来を感じる仕事と映ることが大切だろう。旅行業界は夢のある業界としてのイメージ転換が必要である。例えば海外ではトラベルデザイナーという表現が使われるが、日本でも旅行代理店、ツアーオペレーターではなく、トラベルデザイナーに切り替えた方がよい。

 現在の若者が失敗を経験していない世代であることを認識する必要もある。人生で初めて経験することはすべて検索して予備情報を集め、他人の事例を参考に行動するので、いままで大きな失敗がなく、逆に未知の世界への体験にもあまり積極的でない人が多い。

 昭和世代のわれわれと、ゆとり教育で育った若者たちとは考え方も社会環境も大きく変化した。上司が昭和のスタイルで若手社員にコミュニケーションをとろうとするとハラスメントになる可能性が高い。私たち世代も時代にあったモデルチェンジが必要だ。

 魅力ある人間が働く職場だと感じられれば離職率も下がるのではないか。私は学生の頃に職業を選ぶ段階で先輩に言われた。「良い仕事をしろ」「良い人と付き合え」、そして「たまには天下国家を考えろ」。この信条をいまも大切に過ごしている。

柴崎聡●グローバルユースビューロー代表取締役社長。海外のネットワークから企画が実現した世界初の「ウィーン・フィルクルーズ」はクルーズ・オブ・ザ・イヤー受賞。シェフや音楽家が同行する旅などオリジナル企画を多数実施。カルチャー&ホスピタリティーを念頭に企画から添乗まで現場で陣頭指揮を執る。