競争入札と談合 成長領域の落とし穴

2024.07.22 00:00

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公正取引委員会は青森市の指名競争入札に関し、大手旅行会社5社の談合を認定した。旅行会社にとって有望分野になりつつある公共入札市場だが、対応を誤れば大きな損失につながり、将来のビジネスにも影響を及ぼしかねない。自治体の対応にも問題があった今回の談合から、観光産業は何を学ぶか。

 公正取引委員会が独占禁止法における「不当な取引制限の禁止」の規定違反を認定したのは、青森市が実施した新型コロナ患者移送業務の指名競争入札だ。入札に参加した大手旅行会社に対し、5月30日付で独禁法に基づく行政処分として排除措置命令を行った。談合に関わったと認定されたのは近畿日本ツーリスト(KNT)、JTB、日本旅行東北、東武トップツアーズ、名鉄観光サービスの5社。このうちKNTを除く4社が排除措置命令の対象となった。

 指名競争入札が行われた業務の内容は、新型コロナ軽症者を自宅から宿泊療養施設となったホテルなどへ移送する業務と、それに伴う車両や運転手の手配、感染防止対策としての座席の養生などだ。入札は22年に3回、23年に2回の計5回あり、発注総額は合計約3200万円となった。

 5回の入札ではいずれも、5社の支店長級社員がメールや電話、対面での打ち合わせを通じて、入札当日に5社間の協議を経るなどして決定した価格で入札し、受注予定者をKNTに決め、入札に参加したKNT、日本旅行東北、JTBの3社の入札価格を決定した。そのうえでKNTが落札した。青森市から落札者であるKNTへ委託された業務は、KNTを介して他の4社にも委託され、かかった経費を差し引いた利益を5社でほぼ均等に分配し、各社が数百万円ずつを得た。

談合誘う魔のタイミング

 各社が得た数百万円は法令違反を犯すリスクに見合ったものかどうかは疑問だが、そもそもなぜ談合に手を染めたのか。公取委事務総局審査局の小室尚彦第二審査長は「随意契約から競争入札に移行するという、談合になりやすい状況で起きたものだった」と語る。いわば悪魔がささやきかけるタイミングで起きてしまった不正だったといえる。

 というのも、青森市は当初、22年3月と4月の特定移送業務を随意契約で行っており、5社が役員となっているJATA(日本旅行業協会)東北支部青森県地区委員会に業務を発注していた。その後、市は業務の発注を随意契約から指名競争入札に変更。その入札過程で発生したからだ。

 それまで5社で分け合ってきた同じ業務を、発注方法の変更後もそのまま分け合おうという誘惑にかられるのは考えられることだ。もちろん、談合に関わった社員のコンプライアンス意識がしっかりしていれば起こらなかったともいえるが、誘惑にかられるタイミングが存在すること、またその際にはどう対処すべきかを事前に学んでおくだけでも、事態は違っていたかもしれない。

 入札に参加したKNT、日本旅行東北、JTBが独禁法違反となるのは当然だが、今回は入札に参加しなかった東武トップツアーズと名鉄観光サービスも排除措置命令の対象となった。この点については、2社も特定移送業務の入札価格情報を共有しており、談合が機能するために一定の役割を果たしていたため、他の3社と同様に違反行為に手を染めていたと判断された。

市とJATAにも申し入れ

 今回の談合に対する公取委の対応の特徴は、旅行会社に行政処分を下しただけでなく、発注者である青森市とJATAにも申し入れを行ったことだ。市に対しては改善要請等を行い、JATAには会員向けに独禁法順守の取り組みを実施するよう促している。

 公取委の調査によれば、青森市は指名競争入札への変更に当たり、特定移送業務を手掛けることができる者が一定数見込めるかを確認するため、入札参加資格を持つ会社のいくつかに可否照会を行った。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年7月22日号で】

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