訪日客のマナー問題再び 歴史的円安で変わる客層への対策
2024.07.15 00:00
訪日外国人客のマナー問題が再びクローズアップされている。人気観光地を中心に顕在化していた旅行者のマナー問題は、コロナ禍でいったん沈静化していたものの訪日需要の急回復で再び状況が悪化している。地域や産業界はこの問題にどう対処していくべきなのだろうか。
京都の八坂神社は5月25日付で「御本殿の鈴の緒について」とのお知らせを発表。「参拝者皆様の安全を考慮し、御本殿の鈴の緒を17時頃~翌6時まで上げております。その時間帯において通常のお参りはできますが、鈴を鳴らしてのお参りはできませんのでご了承の程よろしくお願い申しあげます」と異例の措置について説明した。
祇園祭などで参拝者が殺到する時期やコロナ禍での対策として鈴の緒を触れられなくしたことはあるが、それ以外では異例のこと。「祇園さん」として人々に親しまれている八坂神社に、いったい何があったのか。
京都新聞などの報道によれば、その数日前から外国人旅行者が鈴の緒を力いっぱい振り回し、注意にも耳を貸さない様子を撮影した動画が拡散。昨年11月に撮影された動画だったが、SNSで批判の声が高まっていた。過去に日本人の酔っ払いによる鈴の緒を巡るトラブルもあり、八坂神社も今回の措置と外国人旅行者の行為を関連付けてはいない。しかし、外国人旅行者のマナー問題が再燃する京都の現状が垣間見える出来事だった。
京都ではコロナ禍前から、外国人旅行者が芸妓や舞妓を追いかけまわし、民家や私道にまで無許可で入り込んで写真撮影する、いわゆる「舞妓パパラッチ」が問題化。行政も禁止行為をピクトグラムで表示する看板を設置するなどマナー啓発の取り組みを支援、強化してきた。
地元の祇園町南地区協議会は19年に、私道での撮影禁止や無許可の撮影は1万円を徴収する旨を記した高札も設置した。しかしコロナ禍後、再び祇園地区に殺到し始めた外国人旅行者への効果は十分でないのが実情だ。業を煮やした地元は今年5月末に一部私道に「進入禁止」看板を立て、違反者には罰金1万円を告知しており、効果に期待している段階だ。
コロナ禍後のオーバーツーリズムと外国人旅行者によるマナー問題を象徴する出来事として今春から問題視されたのが富士山の撮影スポットを巡る騒動だ。富士急河口湖駅近くのコンビニエンスストア前から撮影した富士山の写真がSNSで拡散し、外国人旅行者が大挙して訪れ、住民の日常生活に悪影響を及ぼしたり車の往来に支障を来す事態に発展した。結局、5月21日に問題の場所には黒幕が約20mに渡って張られた。ところが数日後には撮影用と思われる小穴が多数見つかり、6月には幕が大きく破られたため、河口湖町は丈夫な素材の幕に張り替える予定だという。
富士市蓼原の国道に架かる「富士山夢の大橋」も、SNSを通じて大人気となり、外国人旅行者が殺到。中央分離帯に侵入したり道路にはみ出て撮影に夢中になる者が現れたり、ペットボトルやたばこの吸い殻のポイ捨て、違法駐車などの迷惑行為が後を絶たない状況だという。
また、東京を代表する繁華街の渋谷では路上飲酒ができる場所として有名になり外国人旅行者も増加。酔っ払いやゴミ、騒音、トイレ等のマナー違反が問題化した。このため渋谷区では19年にはハロウィン期間や年越しイベント期間の路上飲酒を禁止する条例を制定したが、最近のインバウンド急増でさらなる対応の必要性が浮上。今年6月には条例を改正して通年で路上飲酒を禁止し、10月1日から施行することを決めた。
こうした事態に国も手をこまねいていたわけではない。観光庁では各地域が自由に放映できるマナー啓発動画を作成。また、マナー違反を含むオーバーツーリズム問題の解消を目指し、「持続可能な観光推進モデル事業」に23年度は1億5000万円、24年度は1億円の予算を割いている。その対象事業として例えば北海道美瑛町が取り組んだのが、後を絶たない私有地や農地などへの無断侵入対策だ。畑が踏み荒らされたり、靴に付着している病原菌や病原虫の持ち込みが農業への脅威となっているほか、道路上にあふれた観光客による交通阻害などが長年にわたり問題となってきた。
【続きは週刊トラベルジャーナル24年7月15日号で】
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