知の民主化
2024.07.15 08:00
かねがね気になっていたことがある。それは日本人は学びというもののイメージが極めて狭いのではないかということだ。
総務省が22年に実施した社会生活基本調査によると、社会人の勉強時間は平均して1日13分だという。この結果を受けて、ちまたには日本の大人の勉強時間が短いことを嘆く論調などもあるが、私は調査の設問自体に違和感を覚えた。この調査では勉強時間を、英語やパソコンスキルなど「仕事に役立てることなどを目的としたもの」と定義していたからだ。学びとは、職業人としてスキルアップすることだけを指すのだろうか。
本来の学びとは、新しいことを知り、自分の行動に変化が起こることを指す。例えばオンラインゲーム「刀剣乱舞」にはまって日本刀を見に全国の美術館を巡ることだって、日本酒好きが高じて器が気になり、気がつけば土を練ってろくろを回すなんてこともいい学びだと思う。学びとは、決して机に座って行うだけのものではない。学校や習いごとの専売特許でもない。
まいまいのまち歩きツアーは実は学びの入り口だ。ツアーに参加すると、これまで想像もしなかった知識に出会う。すると自分の中からむくむくと知的好奇心が動き出すのだ。「いま歩いた道、ここは暗渠(あんきょ)なんです」と聞くと、「ということは近所のあの道も?」と気になりだし、「暗渠はなぜ生まれるのだろう。その社会的背景は」と、さまざまなことが疑問に思えてくる。
ある人は古地図が見たくなり、またある人は土木技術を調べたくなる。まいまいツアーで未知のことに出会うと、そこから学びが始まるのだ。しかも、その学びは誰かに強制されたものではなく、自分の内なる衝動が動き出したもの。とても楽しい体験なのだ。
これまで日本では、学びと楽しさは分断されがちだった。「この大学に合格するために」とか「この資格を取るために」という目的が設定されると、ゴールまでの道のりは歯を食いしばって我慢するものとされてきた。楽しさは二の次だった。しかし、そんな根性論はもう時代遅れになっている。教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテイメント)を掛け合わせた「エデュテイメント」という概念が生まれて久しい。まち歩きだって、ひとつのエデュテイメントなのだ。
まいまい京都・東京では、大学の先生や職人さんなど高度な専門性を持っている人たちにガイドをお願いすることがある。専門的な知識だからといって、その分野の中に閉ざしてしまう必要などないと思うからだ。私たちは学びをもっとカジュアルにしていきたい。少し大げさな言い方をすれば、まいまいはまち歩きツアーを通じて、知の民主化を進めているのだ。
以倉敬之●まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社、イベント企画会社経営を経て、11年にまいまい京都を創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演した。共著に『あたらしい「路上」のつくり方』。京都モダン建築祭、神戸モダン建築祭、東京建築祭実行委員。
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