外国人価格の懸念
2024.07.15 08:00
観光の二重価格の是非について、海外報道機関から取材があった。外国人と日本人で価格を変え、観光事業者が高い外国人価格を設けることをどう思うかと。これにはいくつか理由があり、ポジティブなものは価値を高く感じていただける外国人には価値相応の価格を設定するというものがある。あるいは納税など日常的な社会負担のある日本人と、その時だけ便益を享受できる外国人観光客では負担の差がある方が理にかなっているという意見もある。町営施設に町外者料金があるのと同じ理屈だ。
一方、ネガティブな理由として、オーバーツーリズムが顕著となり、外国人にはこれ以上来てほしくないという思いが価格に表されたということはないか。日本人リピーターの多い事業者などはそう思っても不思議ではない。最も懸念するのが、外国人客が増え、英語を話す機会も増えた現場の場合、アルバイトが集まりにくくなっていないかという点だ。取材でもその懸念を話した。
もちろん、高単価のホテルなどは杞憂だろうが、町の居酒屋や地方の温泉旅館などパート・アルバイトで持っている事業者の場合、英語の苦手な従業員に嫌われてしまうと営業が成り立たない。なんとかストレスを減らしたいと二重価格にたどりついてないか。そんな心配が増すばかりだ。
アルバイト要員として機会の多い大学生も年々、内向的、内気になっている気がする。MBTI診断という性格テストがZ世代で流行しているが、結果を聞く限り、大半の学生が内向的性格だそうだ。
東京ディズニーランドには行くが海外には足が向かない。英語は使えば自信もつき楽しくなるが、円安を理由に海外旅行に行こうとしない。もちろん他の世代に比べ若い世代の海外旅行率は高いが、韓国や台湾などアジアの短期旅行がせいぜい。もっと海外へ、もっと英語を使おう、もっと挑戦しようというのは昭和の発想なのか。
世界中のオーバーツーリズムを生み出す根源的理由は価値に比べ地価の低い国への不動産投資で、需要の偏り以前に供給偏重が生み出されている点が大きい。5%のエリアに90%の投資が集中し、供給が増えれば需要も偏重する。短期的収益を求めようとすれば町はキャパシティオーバーに向かう。そこで生まれるのは人手の奪い合いだ。
ところが残念ながら労働者はストレスの少ない現場を選ぼうと考えている。その結果、従業員を優先して二重価格が選択肢となる。価値を理解し多少英語ができなくても許してくれる、そんな外国人観光客だけに来てほしい。そのためには外国人用価格を設定することだと考える国になった。
大学生は東京ディズニーランドの単価が上がることに不満を漏らすが、そもそも世界で最安のディズニーランドといわれていることを知らない。一度、海外を見てくるがいい。経済が回っている国では国民も外国人同様の価格を支払えているはずだ。
井門隆夫●國學院大學観光まちづくり学部教授。旅行会社と観光シンクタンクを経て、旅館業のイノベーションを支援する井門観光研究所を設立。関西国際大学、高崎経済大学地域政策学部を経て22年4月から現職。将来、旅館業を承継・起業したい人材の育成も行っている。
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