コンテンツを生かす

2024.07.08 08:00

 せっかく観光資源になるはずのコンテンツが地元住民の反対を受けて無駄になってしまう事例は決して珍しいものではない。先日もコンビニの屋根に富士山が乗っかっているように見えるスポットが有名になり、その景色を求めて写真を撮る外国人が殺到。その対策のために地元行政が歩道に目隠しの黒幕を立てて排除を図ったというニュースが話題となった。

 同様にドレスアップした車が集結することで有名な横浜市の大黒パーキングエリアが外国人の耳目を集め、外部から柵を登って侵入したり、タクシーで乗り付けたりするなどして連日多くの見物人が集まることになったため、巡回の強化や車両の駐車時間を制限することも検討されているなどと報道された。

 しかし、追い出してもなお観光客が集まるだけの魅力があるというのはすごい。作為的につくろうとしてもつくれない観光資源がそこには存在しているのだ。地元住民や本来の利用者が困っている問題さえ解消すれば、これらを他にはない唯一無二のコンテンツとして地元経済に貢献し、永続的に生かせる可能性があるはずだ。

 このチャンスを逃してはならないと考えるのは不謹慎なことだろうか。強力なコンテンツを持たない地域の人はもったいないと思うはずだ。魅力的なコンテンツだからこそ排除したいという矛盾を解消するためには、規制を強化するだけでなく、創意工夫を凝らした取り組みが必要だ。

 例えば富士山に関しては、行政や地域がコンビニより魅力的な撮影スポットを用意することなどもできるはずだ。コンビニが外国人にとって日本を感じるクールな建造物であるということに、これまでわれわれは気付いていなかった。それを知ったことで、われわれは日本らしい何かと富士山を組み合わせた場所を用意することができるはずだ。富士山が奇麗に見えるが観光公害にならない場所を探し、そこに日本らしいもの(それは例えばデコトラかもしれないし自動販売機群かもしれない。お祭り広場のような装飾かもしれない)を用意することで外国人の興味は一気にそちらに移っていくかもしれない。朝と夕方で異なるスポットを提供して、エリア全体を周遊させることも可能だろう。

 大黒ふ頭についても、本来休憩場所である高速道路のパーキングエリアに40年近くにわたりドレスアップカーが集まり、それを見物するために無関係の人が押し寄せる状態を放置していたことが問題なのだ。そもそも自動車大国を自認する日本で、車を見せ合いたい人たちの集合場所がいくら聖地とはいえこのような場所しかないというのもおかしい。車を飾ったりレースを楽しんだりする趣味人がいまだにアングラ扱いされているようでは、いつまでたっても欧米のような文化には昇華しない。

 それをせっかく外国人が文化コンテンツとして評価してくれているのだから、いまなら見せたい人と見たい人の双方が満足する空間を整備することも可能だろう。パーキングエリアから誘導した先にスタジアムを造りドレスアップカー専門の集合場所にする。同時に観覧デッキを設けて、外国人をバスで連れてくれば有料で良質なナイトコンテンツが出来上がるはずだ。

 観光資源を全国でつくり上げなければならないいまこそ、すでにある資源をベースにアイデアや工夫を出し合い、地域全体の魅力を高める努力をするべきだろう。観光産業は地域経済に多大な貢献をもたらす可能性を秘めている。問題を適切に解決しつつ賢く生かすことで、地元住民と観光客双方にとって魅力的なコンテンツをつくることは決して不可能なことではない。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長などを歴任。SNSやメディアを介した業界情報の発信に力を入れている。

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