2024年7月1日 8:00 AM
先日、ファムトリップの実施方法で議論になった。インバウンドに取り組む自治体が、行程の検討から手配、そして現地のアテンドまでを旅行会社に委託しようとするものだった。論点はデスティネーションマーケティングの活動で、どこまでを内製化し、どこから外注するのか。その見極めのポイントは何か、である。
インハウスとアウトソースの活用は共に重要となる。その組み合わせ方や程度が成功の可否に大きく作用する。ただ、この線引きや仕分けは簡単ではない。とりわけ広域デスティネーションとしてインバウンドに取り組むような場合は難しい。複数の組織の共同事業となるケースが多く、それぞれの組織風土や経験値がまちまちだからだ。
ここで重要なことは、少なくとも発地サイドと着地サイドの活動の目的や意味を理解し、それぞれの活動を最適化すること。発地サイドのポイントは、いかに多くのメディアや旅行エージェント、ツアーオペレーターとのコネクションが構築できるか。地域単位でインパクトのある成果を出すためには、相応の数のメディアによる露出数やツアーオペレーターによる商品造成数が必要となる。このためレップ(代理人)を担うことのできるマーケティング会社等にアウトソーシングし、リレーションの拡大や維持をよりプロフェッショナルに展開していくことが有効となる。
一方、着地サイドのポイントは、地域固有の魅力を見極め、対象となる旅行者の求める旅を仕立て上げること。そのために必要な地域のプレーヤーとのリレーションを構築し、共により良い旅を提供できる地域として成長していくことだ。地域のマーケティングやマネジメントを担うのが自治体やDMOの職員。地域の成り立ちや多くの事業者が提供するプロダクトを知り、どうつないでより良い旅にするかを考えることが欠かせない。
観光振興はマーケティング論や経営科学などの論理的アプローチに加え、ナラティブなアプローチ、すなわち旅行者の意欲を刺激するための地域の背景を踏まえたストーリーを描くことが重要となる。そこを人任せにしていては必要な感性など養われず、打ち出す施策についてもその程度のものになってしまう。招待するメディアや旅行会社と共に現地を訪れ、彼らの反応を直に感じることで身に付いていくというものだろう。
地域の売りを理解し、どうしたら旅行者が満足する旅が提供できるのかを考える。地域のさまざまなプレーヤーと良好な関係をつくる。一方、市場の開拓など任せるものは徹底して任せ、結果でマネジメントする手法を取り入れる。インハウスとアウトソーシングの適切な使い分けが必要だが、主体は地域であることを忘れてはならない。
村木智裕●インセオリー代表取締役。1998年広島県入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の中枢を経験。2013年からせとうちDMOの設立を担当し20年3月までCMOを務める(18年3月広島県退職)。現在、自治体やDMOの運営・マーケティングのサポートを行うIntheory(インセオリー)の代表。一橋大学MBA非常勤講師。
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