若手には粘り強く

2024.06.24 08:00

 将来、地域づくりを担う若手のミレニアル世代(20代後半~40代前半)、Z世代(10~20代前半)の意識や考えを知りたくなり、「国内宿泊旅行ニーズ調査」(リクルートじゃらんリサーチセンター)、「社会意識に関する世論調査」(内閣府)、「2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」(マイナビ)などを読み、筆者が実際に彼らと接し、周辺から聞き取って感じた印象と照らし合わせてみた。

 彼らは学校や職場で多くのことを吸収して学び成長できる時期をコロナ禍の制約下に置かれ、人との交流や移動そのものを長期間否定されてしまった世代だ。リアルな交流を生業とする観光産業にネガティブなイメージを持っていないか、人手不足に悩むわれわれにとっても彼らの関心を向かせるヒントがないかと考えた。

 子供の頃からパソコンやスマホが必需品で、IT環境が当たり前の中で育った両世代。あふれる情報に流されることなく必要な事柄だけ取捨選択する能力に長け、同じ趣味や特技、価値観を持つ仲間とSNSでつながり、遠路離れた一度も会ったこともない相手ともやり取りできる。一方、ティックトックやユーチューブで自らを主役に多くの人に共感を得ようと、積極的に考え方や行動などを広く発信することをためらわない。

 私のようなベビーブーム世代は情報は実際に現場で得るもので、長い下積みや、先輩・上司からの直接の指導を受けて成長したと認識しているが、ミレニアル世代やZ世代の若手は短期間に結果を求める。早く仕事で責任を持たせてもらいたい、リーダーとしてプロジェクトのまとめ役にしてほしい、興味や得意とする分野に配属・転任させてほしいという要望が大きく、待ちきれず転職や離職を選択することがある。

 私も多くの若手を部下として預かったが、30代前半くらいで転職するケースが多く、慰留しても受け入れられないことが大半。せっかく育成した人材を失うことの喪失感を何度も味わった。特に人材の流動化が他の産業に比べ早くから始まった観光産業である。企業が手間暇かけて人材を育てるより、即戦力を中途採用で受け入れたほうが効率的だという意見も多い。

 当協会では国や観光産業・企業からの補助・支援を受けて、業界をまたがって次世代の人材を育てるためのさまざまな研修プログラムを開発・実践中である。大学での寄付講座をはじめ、将来の幹部候補生を養成する観光経営トップセミナーでは受講1期生に主要旅行会社の社長を輩出するほどまでになっている。

 従前行ってきた小中学校での観光教育への支援に加え、今年度からは観光庁とともに高校での観光ビジネス科目のブラッシュアップをスタートさせるなど、業界や企業の垣根を越えて若手世代の育成に取り組んでいる。また、内閣府補助事業の地方創生カレッジの観光分野をeラーニングを中心に実施。特にDMOや観光DXの専門家を育成するプログラムを開発する予定だ。

 地域への貢献意識が強いといわれる若手世代。観光による地方活性化を目指すわれわれにとってありがたいことだが、裏を返すとコロナ禍を経て内向きな思考に陥り、海外旅行や留学で海外から日本を俯瞰する機会を持っていないのではと勘ぐってしまう。旅そのものが人を育てること、旅先で人や文化に触れることで心身ともに豊かになれることは経験しないと分からない。

 数多くある研修の受講を学校や企業で積極的に奨励し、ネットやSNSに閉じこもることなく、旅で多くの有益な情報に触れ、人との交流により得られる知見のすばらしさを繰り返し、粘り強く伝えていくことが大切だと思う。

最明仁●日本観光振興協会理事長。JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。JNTOシドニー事務所、JR東日本訪日旅行手配センター所長。新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長等を経て23年6月より現職。

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