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『世界カフェ紀行 5分で巡る50の想い出』 旅のお供にちょうどいい一冊

2024年5月13日 12:00 AM

中央公論新社編/中公文庫/836円

 いいカフェがある街はいい街。

 各地をほっつき歩いているうちに、そう思うようになってきた。ひと息つこうとなんとなく立ち寄ったカフェのコーヒーが思いのほか美味しかったり、内装や音楽が素敵だったり、ちょっとした出会いがあったりすると、その街の印象ががらりと変わることもある。

 今のところ私的No.1カフェはサラエボの「Zlatna Ribica」。ゆらめくランプに彩られた店内には形もばらばらな机やソファが点々と置かれ、壁一面にアンティーク雑貨や昔のレコードなどがびっしり。カフェオレも絶品だった。次点は北キプロス・レフコシャの「Kumda Kahve」。古い家をリノベーションしたカフェで、トルココーヒーやローズヒップティーが驚きの美味しさで内装も落ち着いた雰囲気。常連客に交じって何時間でも居られそうだった。

 ほかにも思い出のあるカフェは枚挙にいとまがない。だらだらと過ごすのが前提の場所だけに記憶にも残りやすいし、なにより個性あふれる空間が自分の旅時間を豊かにしてくれる。

 というわけで前置きが長くなったが、今回ご紹介するのは世界各地のカフェをテーマにした50本のミニ・エッセイ集。渋谷のカフェ「ドゥ マゴ パリ」(現在休業中)のフリーペーパーに寄稿されたエッセイのアンソロジーだ。

 城山三郎、鈴木清順、吉本隆明など少し前の時代のそうそうたる文化人の名前が並ぶ。歴史の厚みを感じるウィーンのカフェ、ジョドブールの怪しいラッシー、チュニジアの坊やが運んできた甘いチャイ。カフェの思い出を語ることは土地への思い入れを語るのと同じこと。さらりと読める分量なので、旅のお供にちょうどいい一冊だ。読みながら自分の思い出のカフェについて思いを巡らすのもまた楽しい。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。