試行錯誤を重ねる

2024.04.29 08:00

 観光コンテンツに付加価値を付け、高単価な商品として販売していく取り組みが多くの地域で行われる。日本への旅の価値を高め、来訪者の増加に頼ることなく経済的インパクトを得ていくには欠かせない戦略だ。しかしながら、どこをどう磨くのか。その視点がふさわしいものでなければ、自己満足の商品が生まれるだけに終わる。

 各地で高付加価値旅行者をターゲットにしたインバウンドマーケティングが行われ、活動をサポートする機会も多い。最近でも毎月のように海外のメディアや旅行エージェントを招請したファムトリップを実施しているが、海外富裕層を顧客に持つ彼らの反応からは多くの気づきを得ることができる。先日も、あるワイナリーを訪れた際の評価が示唆に富むもので、本来の磨き上げとはこうあるべきだということを教えてくれた。

 その評価とコメントはこうだ。「ポテンシャルはあるが多くの改善が必要だろう。ワインの味でいったら富裕層はフランスやカリフォルニアなど本場を体験したことがある人たちばかり。そういった所に行き慣れた人からすると、ここのワインの味は劣る。そのためワイナリーとして正面から打ち出すのはお勧めできない。一方、自閉症の息子さんがおり、障害者雇用の課題を解決しようとするソーシャルビジネスとしてワイナリーを始めたという経緯を聞いた。海外の富裕層はこうした取り組みへの関心は高く、日本では新たな挑戦といえるこの活動の意義をストレートに訴えてもよい。なぜワイナリーという選択をしたのか。どんな背景でビジネスをスタートしたのか。家族の背景などをうまく伝えることで共感を生み、旅を通じた支援へとつながる」

 ともすれば、海外の一流ワイナリーを知る専門家のアドバイスの下で海外のワイナリーに近づこうとする。しかし海外の旅行者を熟知し、歴史や伝統ではかなわない本場のワイナリーを知るメディアや旅行会社の指摘は極めて現実的で戦略的だ。

 コンテンツ開発を専門とする実務家の意見もあっていい。ただ、その国の人で、実際の旅行者に常に接し本物を知る人のアドバイスに勝るものはない。本来、商品のブラッシュアップとは、市場や消費者、旅行者に提供し、その反応や評価を得ながら行うもの。開発に当たって入念なリサーチも重要だが、市場に投入することによるフィードバックで得られる気づきは極めて大きい。

 商品をつくり、旅行者に届けるべく旅行会社にセールスをかけ、知ってもらうためにメディアに取材を依頼する。コンテンツの磨き上げはこうした過程で生まれるフィードバックや実際に販売され聞こえてくる旅行者の評価をもとに試行錯誤を重ねていくものだ。こうしたマーケティングの基本をあらためて考えてもよいと思う。

村木智裕●インセオリー代表取締役。1998年広島県入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の中枢を経験。2013年からせとうちDMOの設立を担当し20年3月までCMOを務める(18年3月広島県退職)。現在、自治体やDMOの運営・マーケティングのサポートを行うIntheory(インセオリー)の代表。一橋大学MBA非常勤講師。

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