2024年4月15日 8:00 AM
私たちが提供するまち歩きツアーは有料だ。1コース5000円程度の参加費を設定している。いまでこそ少なくなったが、以前は「参加費が高い」という声も聞こえてきた。日本では、まち歩きといえばボランタリーなものが多かったため、そんな反応もあったのだろう。しかし、私たちはツアー参加費は安ければ安い方がいいなどとは考えていない。価格を安くしたままでいることは社会の未来を損なうことになるからだ。
例えばこんな話がある。ある街に安くておいしいそば屋さんがあった。値段は昔から変わらずかけそば1杯380円。お店はご主人と奥さんで切り盛りしていて、かたくなに値上げしない。店は持ち家だから家賃もかからないのだろう。その街で長年愛されてきたが、結局一代限りで閉じることになる。息子はいるが、彼らは稼ぎの少ない家業を子供に継がせようとはしなかった。
いいものを安く提供する。商売っ気のない職人気質は美談として語られがちだ。でも、私はそのことに違和感がある。なぜなら、安すぎる価格設定のために持続可能性が損なわれ、結局お店がつぶれてしまえば街のためにならないからだ。もっと言えば「お客さんのためを思って」と値段を据え置くことがお客さんの不利益になってしまう。
まいまい京都・東京は、まち歩きを事業として行う全国でもまれな組織だ。事業とは単なる金もうけではない。生活者の課題を解決し、人生を豊かにしていくサービスだ。事業者には公共的な役割がある。だからこそ事業者は未来への投資が行えるような価格を設定して、事業が継続できるように努力する責任がある。
私たちの事業は、ある分野に深い偏愛を持つガイドさんに一定の対価を払う仕組みである。まち歩きツアーという場でガイドさんの愛を参加者に伝え、ガイドさんには参加費の一部が支払われる。庭師や廃線マニアや地図好きなどニッチな分野に情熱を注ぐ人たちは、市場で必ずしも評価されるとは限らない。けれど私たちはガイドさんの偏愛こそが私たちの人生を豊かにすると考える。
ガイドさんに金銭的な対価が支払われる仕組みをつくることで、ガイドさんはさらにその偏愛を深め、新たな価値観がきっと社会に還元されていく。まち歩きのガイドとして参加者に知見を広めることが稼ぎ方のひとつになっていけば、この社会はもっと面白くなるはずだ。
かつて仕事とはやりたくないことを我慢するものという価値観があったかもしれない。けれど近年は違う。私は偏愛で突き抜けていく人たちに稼ぎを得る場を提供したい。それが愛を深めて生きていく人たちの誇りにもつながる。偏愛を持つユニークな人たちの誇りと稼ぎを実現したい。そこから社会はきっとますます楽しくなっていく。
以倉敬之●まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社、イベント企画会社経営を経て、11年にまいまい京都を創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演した。共著に『あたらしい「路上」のつくり方』。京都モダン建築祭、神戸モダン建築祭、東京建築祭実行委員。
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