2024年2月26日 12:00 AM
ストーリー性を持たせた旅行が提供できれば、訪日客の地方への誘致と滞在の長期化を図るうえで効果的だ。しかし課題は、旅程を通して同行するスルーガイドの確保。ストーリーを伝え、旅程を管理し、そして旅を盛り上げる。そんなマルチな役割を担うガイドの育成が求められている。
25年度までの3カ年の観光立国推進基本計画では、消費額拡大、地方誘客促進、持続可能な観光の3つがキーワードに挙げられている。これを推進する原動力として期待されることの1つがストーリー性のある旅行の造成だ。旅全体を一貫したストーリーの下で提供できれば、個々のコンテンツを目的とする単発型の旅行より多くの時間をかけて深い関連性を楽しみ、長期的かつ各地を周遊する旅行需要を喚起できる。地域にしっかりと光を当てれば、地域に対する理解と責任感も醸成できる。観光庁観光地域振興課の平山耕吏課長補佐は「旅行者はストーリーによって地域の神髄に触れることができる。そして消費拡大、地方誘客、持続可能性のすべてを満たしてくれるのがストーリー性を持つ旅だ」と位置付ける。
観光庁は支援の一環として、23年度に「地域のコンテンツの連携促進(ロングストーリー造成)事業」を立ち上げて取り組んできた。初年度としてまずストーリーと地域のコンテンツを効果的につなげるプロジェクトを選定。支援対象には、サムライ精神、鯖街道、日本刀、弘法大使の足跡を示す四国遍路などを軸とする10件のプロジェクトが選ばれた。
このうち3件は地域ブロックをまたぐ旅程だ。例えば、地球の歩き方サムライプロジェクトチームが取り組むツアーでは、居合や弓道など武道、武士がたしなんだ茶道、サムライ精神の理解につながる相撲の稽古見学、武家の衰退とサバイバルをいまに伝えるサムライシルクの製造現場訪問などを1つのストーリーにまとめ上げ、金沢・東京・山形を旅する。スルーガイドは基本的にすべての旅程において1人で案内や管理などを担う。地域ごとにローカルガイドが付くことはあるが、ツアー全体を導いていく存在だ。
観光庁はモデルとなる先進事例を学ぶため、ロングストーリー事業関係者を対象にヨルダンへの研修旅行も実施した。全長650㎞を約40日間かけて歩くヨルダントレイルの一部を視察。ここでは実際にストーリーを旅行体験に落とし込んでいく方法やガイディングのポイントなどに関して多くの情報を得た。研修の報告書では、全行程に同行して旅の始まりから終わりまでコーディネートしたスルーガイドの役割と影響力の大きさが指摘されている。
スルーガイドに求められる役割は、顧客理解、インタープリテーション、意外性や感動の演出、グループマネジメント、行程管理、安全管理など多くの要素がある。しかし、それ以上に重要なことはツアー全体を通じたストーリーテリングのスキルで、どこで何を語ってストーリーを感じてもらうかの工夫や検討を行っていくことで、より良いスルーガイディングにつなげていくべきだ、と報告されている。平山課長補佐も「スルーガイドはロングストーリーの根幹で、いなければ成立しない」とその重要性を指摘する。
ストーリーテリングのスキルを構成する要素には、顧客の属性やニーズに合わせてストーリーをどのようなタイミングと方法で伝えるのか、臨機応変に対処できる能力の重要性が挙げられる。「例えば、茶道をストーリーとする場合、参加者の一番の興味が体験にあるのか、それとも歴史なのか、道具なのか、参加者に寄り添って彼らのニーズを感じ取りガイディングに反映することが求められる」(平山課長補佐)
【続きは週刊トラベルジャーナル24年2月26日号で】[1]
Copyright © TRAVEL JOURNAL, INC. ALL RIGHTS RESERVED.