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野球にピーナツは普及するか

2024年1月15日 12:00 AM

 日本を小麦の輸出先とするため戦後の日本の食生活革命に成功した米国が今度は野球観戦をてこに米国産ピーナツを売り込む作戦だとウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた。

 日本は大谷翔平など多数の有能な野球選手を米大リーグに送り込んできた。お返しに日本の野球ファンに米国産ピーナツを送り込もうというわけだ。米国農産物の輸出市場として上得意先の日本で消費されるピーナツの90%は輸入品で、その半分は米国産。22年の米国ピーナツの対日輸出は2万171トン、53億円で過去最高を記録した。

 タンパク源としてアピールすれば日本でさらに売り上げを伸ばせるとアメリカンピーナツ協会(APC)は見ている。目を付けたのが野球観戦のお供として宣伝すること。「野球とピーナツ。失敗のしようがない」と米国オーガニックトレード協会は踏む。米国では球場でピーナツを食べるのは審判に向かって怒鳴るのと同じく当たり前。

 子供の頃に「私を野球に連れて行って。(中略)ピーナツとクラッカー・ジャックを買って」と歌った人が多い。「球場でピーナツ?うーん、ちょっとピンとこない。日本ではもっとしっかりしたものを食べることが多い」。神宮球場で野球観戦していた女性は言う。彼女の酎ハイのつまみはチキンフリッターのタルタルソースがけ。要するに日本の野球場ではピーナツを食べる習慣がない。

 APCは日本各地の球場でピーナツを売り込むイベントを開催。米国の業界団体の先頭に立って日本の野球市場をこじ開けようとしている。しかしハードルがある。まず米国の球場と日本とではピーナツの食べ方が違う。同協会は当初サンプルとして殻付きピーナツを配ったが、日本の野球ファンは殻を地面に捨てることを嫌がった。ピーナツの殻をゴミとして観客席の地面に捨てるという文化は日本にない。福岡のペイペイドームでは殻なしピーナツがすでに販売されている。

 同球場の営業担当は狭い座席で殻をむく時、両手を使う必要があることが殻付きピーナツの難点という。日本の一部野球ファンに殻付きピーナツが好きな人もいるが世間一般の空気は殻なしのようだ。APCは日本では殻なしでローストされ塩味付きピーナツを提供することにした。

 APCの調査で判明したことがもう1つある。米国の野球ファンは球場の通路から売り子が投げるピーナツの袋を喜んでキャッチするが、日本では米国流が受け入れられなかった。そこでサンプル配布は入場ゲートで手渡す方式にしたところ大変喜ばれた。問題は日本人が球場でピーナツを買うことに慣れていないだけとAPCは結論づけた。

 09年からボストン・レッドソックスでプレーした田澤純一氏が、かみ応えがあり、吐き出す必要のないハイチュウをチームメートに紹介し米国で人気となった例もある。森永製菓は14年から販売促進に米国の複数の野球チームと提携し、米国で生産を開始している。果たして日本の野球場で米国産ピーナツの売り込みは成功するだろうか。

平尾政彦●1969年京都大学文学部卒業後、JTB入社。本社部門、ニューヨーク、高松、オーストラリアなどを経て2008年にJTB情報開発(JMC)を退職。09~14年に四国ツーリズム創造機構事業推進本部長を務めた。