Travel Journal Online

リレーションシップ

2023年9月4日 8:00 AM

 この業界はリレーションシップが重要だ。フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが欠かせない。そうした関係を土台に時間をかけて市場を開拓していくことで成果は得られる。16年に海外市場獲得に向けて動き出した時、英国旅行業界のスペシャリストに教えられた。いまでもその考えは変わらなし、地域の観光振興を進める上の前提として知っておくべきだと思う。こうした考え方の下でデスティネーションとして地道に市場関係者とのリレーションを広げていくことが有効なマーケティング戦略になるのだが、この部分への理解が低い状況が続いている。

 海外市場の開拓で散見される事象として、レップ(Representative)を十分に使いこなせていないこともその一例。レップとはデスティネーションサイドに立ち、その一員として市場でのメディアによる露出獲得や旅行会社による送客を促す役割を担う。このため、その市場でのメディアや旅行会社とのリレーションを長い時間をかけてつくり上げており、それが最大の経営資源となる。レップを置くということは、レップが時間と労力をかけて築いてきた市場のリレーションをそれに見合うフィーを支払うことで利用し、成果への近道とするものだ。

 こうした考え方に立てば、レップを業務委任契約で動かすことになったとしても、そのレップが有するメディアや旅行会社とのリレーションをすべて手にすることができるわけではない。

 レップがリレーションを有する旅行会社をリストアップさせ、レップの競合になる別の契約で動かす他社につなごうとするケースがあった。これなどは業界の常識からもビジネスの常識からも逸脱したものといえよう。レップを毎年公募で選び直すケースも多い。これもデスティネーションとの強固な信頼関係を前提に機能するレップの性質を考慮しない形といえる。

 毎年選別を繰り返すデスティネーションとはその程度の関係の範囲で活動することになる。すなわちレップとの間にそれほど強いリレーションが築かれることはなく、市場での成果もそれに見合ったものになっていく。

 問題なのはこうしたレップをはじめとしたリレーションへの正しい評価やリスペクトがないことへの抵抗感から、最近、日本の行政機関やDMO案件を敬遠する海外レップが出てきたことだ。海外ネットワークを持つ地域が少ないなか、今後、インバウンドマーケティングを展開する上では大きな痛手となるだろう。

 リレーションシップの価値やリレーションシップを有する者への正当な評価の下で、これらを有効かつ継続的に活用しながらマーケティングできるようになることが成果への近道となる。

村木智裕●インセオリー代表取締役。1998年広島県入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の中枢を経験。2013年からせとうちDMOの設立を担当し20年3月までCMOを務める(18年3月広島県退職)。現在、自治体やDMOの運営・マーケティングのサポートを行うIntheory(インセオリー)の代表。一橋大学MBA非常勤講師。