2023年8月7日 12:00 AM
旅しながら仕事をするリモートワーカー。それがデジタルノマドだ。世界を転々とする彼らを日本に呼び込もうと、政府は受け入れ制度の検討を始めた。世界的な有望市場とされ、専用ビザを発給する国も少なくない。日本を選び滞在してもらうには何が必要なのか。
米国ではデジタルノマド市場が急拡大している。個人事業主対象のコンサルティング企業MBOパートナーズによると、米国のデジタルノマド人口は22年に前年比9%増の1690万人に達した。コロナ禍前の19年は730万人だったが、20年1090万人、21年1550万人と急伸し、22年までの3年で2.3倍。その成長率は力強い。最も伸びたのはパンデミックさなかの20年から21年にかけての1年間で、42%増加した。
これはコロナ禍がきっかけとなって普及したリモートワークがデジタルノマドを増大させていることを示唆しているが、エアビーアンドビーも自社の業績分析でデジタルノマドの可能性を指摘している。21年第3四半期の米国国内宿泊数は19年同期に比べ85%も増加したとし、その要因にデジタルノマドの利用を挙げた。世界的にも同様の傾向が見られ、長期滞在予約者のうちノマド的なライフスタイルを実現するために利用している者の比率が20年の9%から21年には12%に増加したと説明している。
パンデミック以降、エアビーの業績にとって重要性を増すデジタルノマド人口の拡大に、同社自体が貢献しようとする動きを見せている。22年に発表した新制度「Live and work anywhere」はオフィス勤務が不可欠な一部社員を除く大半の社員が勤務場所を自由に選んでよいというもの。世界中を旅しながら勤務することも可能で、社員が望めばすぐにでもデジタルノマドになることができるわけだ。
これをデジタルノマド人口を増やしたい同社の普及戦略の一環と見ることもできるが、本気度は相当なものだ。この発表に先立つ22年1月にはブライアン・チェスキーCEOが自らデジタルノマド宣言をし、数週間ごとに各地の施設を転々としながら仕事をすると発表した。その5カ月後には滞在先のニューヨークでタイム誌のインタビューに応え、リモートワークで同社の生産性が向上したことや自らの体験を踏まえ「これまでのようなオフィスが必要な時代は終わった」と言及。リモートワークやデジタルノマドこそが新時代のスタンダードであるとの認識を明らかにした。
EYストラテジー・アンド・コンサルティングはインバウンド回復期における日本のツーリズムの課題を分析した22年の調査報告の中で、短期賃貸の宿泊需要が急増し、23年には19年比で41%成長すると予測。その背景として、人々が必ずしも仕事をする場に拘束されなくなったことが要因の1つだとし、コロナ禍後のデジタルノマドへのアプローチの重要性を指摘している。
こうして見ると、デジタルノマドが拡大する下地が世界的に整ってきたと考えられるが、その市場規模の全体像は明確ではない。手掛かりになりそうなほぼ唯一の調査が、米国の個人旅行者向け情報サイトのA Brother Abroad(ア・ブラザー・アブロード)のデータだ。世界各地にいるデジタルノマドを対象とした調査で、約4000人のサンプルからの推計ではあるが、世界のデジタルノマド人口を3500万人としている。平均月間支出額は1875ドル、年間2万2500ドルと算出。人口と掛けて世界全体の市場規模を7875億ドルと試算した。日本円に換算して実に100兆円を超える。
正確な市場規模がどれほどあるのかはともかく、リモートワークの普及とそれに伴うデジタルノマドの拡大傾向は間違いない。このため世界各国で争奪競争も始まり、急速に広がっているのが専用ビザの導入だ。スペイン、ポルトガル、ギリシャといった欧州の観光国、クロアチア、ルーマニア、ハンガリーといった旧東欧諸国、バミューダ、ドミニカ、バハマといったカリブ海の国々、メキシコ、パナマ、エクアドル、コロンビアといった中南米諸国に加え、タイ、スリランカ、インドネシア、マレーシアなど東南アジアにも広がりを見せており、導入国・地域は40前後に達している。
【続きは週刊トラベルジャーナル23年8月7日号で】[1]
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