2023年5月22日 12:00 AM
観光庁が策定した「ポストコロナ時代における観光人材育成ガイドライン」は、持続可能な観光地域づくりをけん引する人材を「観光地経営人材」と表現。その人材像と、必要となる知識や技能について言及している。そこに示された観光地経営人材が目指すべき姿とは。
ここへ来て観光地経営人材育成の必要性がクローズアップされ、国がガイドラインまで設けようという理由は、端的に言えばその人材がいないからだ。現場を支える人材がコロナ禍によっていなくなり、需要回復とともに人材不足が顕在化している事情とは異なる。
そもそも観光地経営人材は、コロナ禍の有無にかかわらずごくわずかしか存在しなかった。ようやく観光地経営という概念が共有され始め、各地域でその役割を担うDMOが少しずつ機能し始めた。ガイドラインでも「観光地経営に関する人材の育成については、主としてDMOがその役割を果たすことが強く期待されていた」と言及する。しかし観光地経営がうまくいっている地域は少数で、DMOとは名ばかりで実態は観光協会が看板を掛け替えただけというケースも珍しくない。
観光地経営が不在だから人材が育たないのか、人材がいないから観光地経営がおぼつかないのか。因果関係はともかく、いずれにしろ観光立国宣言から20年が経過した日本の、それが現状だ。
ポストコロナ時代における観光人材育成ガイドラインでは、観光人材を2つのタイプに分けてその育成方法を示している。観光地経営人材と観光産業人材の2つだが、曲がりなりにも先行してきたのが観光産業人材の育成だ。
観光産業の長い歴史は観光産業人材を輩出し、近年では国の後押しも得て施策も先行。京都大学や一橋大学ではトップ人材の育成を念頭に観光MBAとしての教育プログラムが展開されてきた。中核人材については大学を拠点にリカレント教育が実施されている。
しかし観光地経営人材の育成については、これまで具体的に顧みられたことはない。今回のガイドラインが初めての具体的な提案といえる。
ガイドラインでは観光地経営人材像として5つのポイントを挙げる。第1に地域に対する誇りと愛着を持っていること。第2に地域全体の利益を常に意識し、起業家的役割を発揮しつつ、滞在価値創造と持続可能性を基本としたビジョンとミッションを示せること。第3に不確実性の高い環境下でも具体的な成果を挙げられること。第4に幅広い関係者と信頼関係を構築しつつ、利害や意見を調整して合意形成し協働できること。第5に社会的使命感、倫理観、責任感等をもってコンプライアンスの順守と適正な事業管理ができること。
つまり地域に愛着を持ち、ビジョンを示して全体をリードし、どんな環境でも成果を上げ、関係者の信頼を得るとともに自らを厳しく律して仕事に当たるといった人材が望まれている。
育成活動によって育むべき知識と技能についても6項目にわたり高い理想が示される。1つ目は観光地経営戦略の策定手法や戦略遂行のための組織づくりの能力。加えて戦略策定に必要なアカウンティング・ファイナンス、ブランディング等に関する基本的理解も求められる。2つ目は観光地経営の最新動向を知り観光地経営のかじ取りに生かせる能力。とりわけグローバルトレンドである持続可能な観光に関連する市場動向や行政、関連法規の理解も必須となる。
3つ目は観光地経営組織マネジメントの能力で、リーダーシップを発揮し関係者を巻き込みつつ課題を解決し成果を出していく手法が求められる。4つ目は観光地マーケティングに必要なデータ・統計分析技法を理解し、プロモーションを効果的に行うためのマーケティング手法を知ること。5つ目は地域観光のイノベーション能力。必須とされるのは観光マーケティングに必要なITシステムや観光DX等の基礎を理解することだ。
6つ目は観光地経営のアントレプレナーシップと事業開発の能力。これは1から5の知識・技能を踏まえた総合実践力を指している。
【続きは週刊トラベルジャーナル23年5月22日号で】[1]
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