2023年1月30日 12:00 AM
超高齢化社会を迎えつつある日本では、高齢者の認知機能低下の防止や健康寿命の延伸が社会課題となっている。そうしたなか、旅行の持つ機能に医療界が熱い視線を注ぎ始めた。人生100年時代における旅の役割は、観光・旅行業界が思う以上に大きくなっている。
最先端のVR(仮想現実)技術を駆使した疑似旅行体験などを福祉サービスとして高齢者に提供する新プロジェクトが立ち上がった。手掛けるのはメタ日本法人のフェイスブックジャパンだ。福祉領域でVRやAR(拡張現実)などテクノロジー活用の研究を行う東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太氏と連携し、まずは盛岡市と神戸市で展開していく。
アクティブシニアを対象にVRで使う映像を撮影するワークショップを行い、参加者は360度カメラの使い方を学んで風景を撮影する。各地で撮影した映像を活用して、福祉施設で入所者向けのVR旅行体験会を実施。入所者は訪れたことのない場所を疑似的に旅行する体験ができるわけだ。メタバースでソーシャルテクノロジーの次なる進化への貢献を掲げるメタのプロジェクトの一環で、シニアの地域社会とのつながりを強化し、コミュニティーづくりを支援する狙いがある。
この新プロジェクト発表会の席上、高齢化社会における旅行の役割を考えていくうえで、ヒントになりそうな発言が相次いだ。「フレイル(加齢により心と体の働きが弱まった状態)の予防では、何を食べるか、どんな栄養を摂取するかというより、それを誰とするかという要素が大切。人とのつながりや社会性、つながり続けることが重視されるようになってきている」。こう述べたのは、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢機構長・教授だ。「健康のために健康的なことをするのは、もはや限界に来ている」と言い、何かをすることで結果的に健康になるのが望ましいという考えを示す。「その意味でツーリズムには大いに期待している」とし、社会参加の1つの形として、旅行の持つ機能と価値を評価する。
また、フェイスブックジャパンの味澤将宏代表取締役は、「VRが実現するのは、物理的距離や属性、身体性にかかわらず、人と人とがつながり、コミュニティーに参加できる社会。VR活用は現在はゲームやエンタメ分野が中心だが、今後は生活全般、たとえば働き方や教育、福祉などに広がっていくだろう」と予測した。
日本旅行は、認知機能の訓練、栄養指導、運動、そして社会参加としてのeスポーツという4つの要素を組み合わせた新事業を立ち上げた。「脳の学校プロジェクト」と名づけ、全国の自治体や企業に提案している。認知機能の見える化に取り組むトータルブレインケアと認知症予防に関する業務委託契約を締結。そのほか、脳を活性化する体操「ブロックエクササイズ」を考案した関西大学人間健康学部の弘原海教授、人工知能(AI)で認知機能リスクを予測する検査法を開発した医光ヘルステクノロジーズ、eスポーツの専用施設を運営するレッドホースコーポレーションと連携する。
脳の学校プロジェクトは、認知症の広がりなど、超高齢化社会に潜む社会課題をICT技術などを活用して解決していくためのトータルサポート事業の総称だ。出発点となるのは認知症の見える化で、「脳体力トレーナーCogEvo(コグエボ)」がその役割を担う。これはトータルブレインケアが提供するクラウドサービスで、認知機能のチェックが手軽にできるのが特徴だ。医療機関・介護施設だけでなく、企業の健康経営支援やドライバーの安全運転など幅広い分野で活用が広がっている。
日本旅行はコロナ禍で旅行事業が落ち込むなか、事業者や社会の課題解決に当たるソリューション事業に力を入れており、その一環として認知症予防を兼ねたレクリエーションメニューづくりやデジタルデバイド(情報格差)の解消などを目的にeスポーツを取り入れる試みを手掛けている。
【続きは週刊トラベルジャーナル23年1月30日号で】[1]
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