2022年9月12日 12:00 AM
ポストパンデミックの急激な旅行ブームは世界中の旅行・観光産業の人手不足をあらわにした。空の旅行では夏のシーズンを迎えて頻繁なフライト取り消し、長時間の遅延、空港での長い行列、荷物の紛失が多発した。空港で働く各部門の人材不足が主な原因で、英フィナンシャルタイムズは地上スタッフの問題を取り上げている。ロンドンのヒースロー空港の場合、地上スタッフは空港労働者の70%を占め、航空会社自体の雇用もあるが多くは下請け会社の従業員だ。手荷物仕分けや駐機スポットの仕事などに従事する。
7月初め、ヒースロー空港は各航空会社に運航計画削減を求めた。その後9月11日まで旅客数を1日10万人に制限し、夏シーズンの航空券販売中止まで要求した。ブリティッシュ・エアウェイズは8月15日まで航空券販売を停止すると発表した。同様な旅客数制限はガトウィック、スキポールやフランクフルト空港などでも見られるが、8月15日にヒースロー空港は旅客数制限を10月29日まで延長すると発表した。ただし航空会社が新たに十分な地上スタッフを雇用していることが確認できれば、それ以前でも制限を撤廃する。エミレーツ航空などは前例のない空港の措置に反発しており、空港と航空会社は相互に不満がある。
1996年に欧州の空港グランドサービス市場が自由化され、国の独占事業が市場に開放された。以来、参入者が増加してシェア争いが始まり、コスト削減が最重視されるようになった。地上スタッフも加入する空港サービス協会は、自由競争が業界の経営維持を難しくしていると指摘した。2018年に行った同協会、空港、労働組合の共同調査によると、地上サービス業者の経営コストは年々顕著に上昇しているなかで航空会社から料金切り下げと作業時間短縮を迫られ続けた。
業者の経営は悪化し新規投資による効率向上は困難になった。人件費が70%を占めるので賃金と安全のコストは圧迫される。労働者は強靭な体力を要求され、低賃金で悪天候や早朝深夜でも働かされる。パンデミック期間にレイオフされた多くの従業員は労働条件も賃金も良い他業種に移った。
人材あっせん会社アズナによると、7月の英国の空港には清掃人700%以上、警備員200%、バゲージ取扱者138%の欠員があった。空港労働組合ACTは地上サービ労働者の賃金と労働条件改善を求めた。航空会社と地上サービス業者の契約は健全な利益提供が前提となる。これが運賃値上げにつながることを市場が受け入れる必要がある。
人手不足は空港だけでなく、ツーリズム全体に共通の課題だ。南欧各国(スペイン、イタリア、ギリシャ、ポルトガル)のホテル、レストラン、旅行業には40万人以上の慢性的欠員がある。特にホテル業界は深刻で20年のパンデミック期間中に自宅待機や離職した多くの従業員が他産業に移った。
夜勤や週末勤務の職場は敬遠され、営業時間の短縮やサービス削減がある。旅行・観光を支える各部門で労働争議が頻発しており賃金は上昇している。低廉な大衆旅行の時代は終わりかもしれない。ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は「ツーリズムは訪問者だけでなく働く人たちにも魅力的でなければならない」と述べた。
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