2022年9月12日 12:00 AM
バルセロナを訪れた時、まず目を引かれたのが、看板や標識に英語、スペイン語に加えてもうひとつ表記があること。カタルーニャ語だ。経済・文化ともに独自の道を歩んできたカタルーニャ自治州は自治の気運が高く、彼らのアイデンティティーのよりどころの一つがカタルーニャ語である。
とはいえ正直、日本人には遠い話で、言語としてもマイナー。そんな言語の専門家として辞書の編纂から日本文学のカタルーニャ語翻訳、さらにカタルーニャ語で小説も出版するというすんごい業績を積み上げたのが本書の著者だ。そもそも銀行員だったというのにも驚くが、駐在したスペインでの出会いや学びをきっかけに、着実に歩んできた人生を振り返った一冊だ。
一般的にマイナーな言語は人気がない。学んでも仕事がなくカネにならないからだ。だが著者は、マイナーだからこそ市場独占のチャンスがあると(このへんが銀行員ぽい)、目標を積み上げ一つ一つクリアしていく。ご家族の理解や協力、本人の語学センスももちろんあるだろうが、素晴らしいなと思ったのはそのバランス感覚だ。「カタルーニャ語で食べていく」という生活意識と「カタルーニャ語は残すべき言語である」という信念、両方がうまくかみ合い前進のエンジンとなっているように見える。現地に興味がある人はもちろん、マイナーなものを売りたい営業マンや、人生に迷う人、立場によっていろんな読み方ができそう。
現在、息子さんの1人はアートホテルを経営と記載があり、オヤ?と思ったら、京都にもある超・超おしゃれアートホテル「BnA」の運営会社の社長さんだった。独自路線を切り開いていくのはやっぱり家訓なのかな、なんて感心しつつ読了したのだった。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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