2022年7月25日 12:00 AM
あづい。
6月下旬に40度近くってどういうことですかね……梅雨明けてからの長雨もあり「戻り梅雨」なんて風情よく言われるけれど、もはや日本の気候は雨季・暑季・乾季で分けてもいいのでは。
そんな夏にぴったりのサワヤカな本を……ということで思い至ったのが今回の作品。観光はカケラも関係ないが、爽快感あふれる読書体験をどうぞ。
目覚めたらそこは真っ白な部屋。体も動かないし記憶もないが、ロボットアームが自分の生存のために世話をしてくれているのはわかる。部屋から出たいがパスワードが自分の名前で、それが思い出せない。しかも隣のベッドには死体らしきものが―。
出だしからして間違いなく面白そうなこちらの本は、いまどき珍しいくらいの真正面からの宇宙SF。作者は前作『火星の人』がマット・デイモン主演『オデッセイ』で映画化されたアンディ・ウィアー。事故で火星にひとり残された宇宙飛行士が知恵と工夫と仲間の協力で地球への帰還を目指す物語は、お仕事小説としても科学小説としても楽しめる大ヒット作だった。
本作も基本的なスタンスは似ていて、優秀な科学者だがごく一般的な地球人男性である主人公グレースが次々とふりかかるピンチを科学の力でいかに切り抜けていくか、が大きな読みどころ。物語が進むにつれ徐々に明らかになる地球存亡の危機と、それを切り抜けるための知恵と思いがけない味方(これが2つ目の読みどころ)との共闘にハラハラドキドキ。完璧なヒーローではないけれど、前を向くことを恐れないグレースを心から応援してしまう。
ちょっぴり苦さも混じるけれど最後は爽快感たっぷり。映画化も決定している。夏の読書にイチオシの作品だ。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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