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仕事とレジャーの境界曖昧に

2022年7月11日 12:00 AM

 足かけ3年に及ぶコロナのパンデミックの間に、ビジネス旅行に質的変化が生じたようだ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)に、ビジネス旅行とレジャーを結合したブリージャー(Bleisure)が紹介されている。それはビジネス旅行に参加する就業者が仕事とレジャーを同時に楽しむことで、2つの境界が曖昧になったことを意味する。ここでビジネス旅行と呼ぶのは国内・海外への出張のようなビジネス旅行だけではなく、日常生活圏から離れた場所で行う仕事のことを指している。

 日常の仕事場を離れて長期のリモートワークを体験した就業者に、仕事に対する心理的変化が生まれた。就業者の多くは仕事に対する意識がフレキシブルになり、新しい体験をしたいと考えているとされる。リモートワークやビジネス旅行の時間はレジャーの楽しみを味わうことができるし、機会があれば本業と別の収入源を求めることも可能だ。オフィスから離れて働く社員に仕事を円滑に行わせるために、経営側も仕事の一面をホリデイ(休暇)のように仕向けている。

 ブリージャーの時代に対応する施策はいくつかの企業に見られる。社内会議を週末の海外持ち出しに変更する例は珍しくない。エアビーアンドビーは社員が国内のどこにいても同じ賃金で働くことができ、年間90日以内なら外国に住んでもよいと発表した。PRエージェントのシンクルス(Thinkrs)は社員にさまざまな離れた場所で働くことを奨励するが、社員の協調と仲間意識を持たせるために全社で4日間アムステルダムに旅行して会議や市内観光を行った。顧客管理ツールのセールスフォースは、パンデミックで長期間オフィスから離れて働く社員のためにカリフォルニアの観光地スコッツバレーに自社用リゾートを開設した。そこではネイチャーウオーク、健康増進ヨガ、瞑想などが体験できる。レジャーの雰囲気の中で社員のやる気と創造性が回復するだろう。

 ビジネス旅行者を受け入れるホスピタリティー産業側も新たなサービスを提供する。ホテルコンサルタント会社のミュウ(Mew)によると、会議室や昼間の客室利用、共同の仕事部屋を提供できるサービスを増やしたホテルが増加している。オフィスからの日帰り旅行を誘致するホテルもある。リモートワークの普及やソーシャルディスタンスへの意識は過密な都会から離れた地域へ人流を増やした。

 エアビーアンドビーによると新たな傾向として知名度の比較的低い都市の需要が増加し、ホスト数は非都市地域の登録が前年から15%増えた。リモートワークの顧客による長期滞在需要の増加により、第1四半期は全予約の21%以上が28日以上の滞在になった。コロナ前の19年同期は13%だった。非都市地域で就業者の民泊滞在日数の増加はブリージャーの流れを反映している。

 ロンドンのプライベートクラブを訪れたFTの筆者は、PCの前に座る会員であふれる光景を見て、純粋にクラブライフを楽しみたい会員は圧迫感を感じると嘆いた。クラブやカフェは本来、楽しむための存在だ。いつも賑わう観光地になった代官山TSUTAYAは最近、CD売り場をつぶしてPC作業や会議用デスク、椅子を備え、スナックや飲み物を提供する時間制ラウンジに改修した。