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『鴨川ランナー』 外国人の目線と心情ありありと

2022年7月11日 12:00 AM

グレゴリー・ケズナジャット著/講談社刊/1650円

 観光目的の入国規制緩和を受けて、わが宿にもインバウンド対応について取材したいというご連絡をぽつぽつといただくようになってきた。

 「外国人旅行者が日本に(京都に)求めるものはなんですか?」

 こんな定番の質問に、彼らの行動から傾向と対策を語る……のが定番の回答だが、本書を読了後、自分が語っていたことの浅さに若干恥じ入った。

 本書は日本在住アメリカ人が日本語で書いた2つの中編小説だ。

 表題作の主人公は京都好きなアメリカ人の「きみ」。高校で訪れた鴨川の風景に魅了され、大学では欧米人がアジアを愛することの微妙さを恋人に指摘されながらも日本語を学び続け、卒業後は京都に移住し英語教師となる。

 あこがれの地で喜びと戸惑いに満ちた暮らしが始まるが、いくら言葉ができても見た目が異質なガイジンは対等の存在として受け入れてもらえない。在住外国人が集うバーに行っても交わされるのは浅い日本文化論だし、日本人の恋人も「海外の匂いがする」と彼の胸に顔をうずめる。引きこもりがちになった「きみ」は、谷崎潤一郎の小説、そして自分で文章を綴ることに救いを得て、やがて……。

 想像以上に面白い読書体験だった。ガイジンの孤独、ツーリストが見る京都となじんでから見えてくる京都。第2言語だからこそ、丁寧に選ばれた言葉が持つ独特の引力がある。第2回京都文学賞を満票で受賞したのも納得だ。

 著者は現在東京で次回作を準備中だそうで、インタビューによれば「外国人が日本語で書くとき、日本について新しい視点で書くことを期待され、それが一種の型になっている。そこから逸脱したい」と故郷アメリカを舞台に選んだという。なんだか良いなあ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。