利益は投資からしか生まれない

2022.06.27 08:00

 ラスト・ディール(原題:ONE LAST DEAL)という映画がある。フィンランドの名匠クラウス・ハロ監督による20年の作品である。この中で、表題の一文にはっと心を奪われた。とても含蓄ある言葉だ。投資とは何か。その概念はなかなか奥が深く、特に日本人には投資は難解だと思われる方も少なくないようだ。

 物語の主人公は大切な人との時間より仕事を優先してきた1人の老美術商である。ジャンルも年齢も違うが、これまでの自分と重なる場面もあり、最初は正直、見ていて身につまされた。主人公はある日、埋もれた名作だと直感する肖像画と出会うのだが、その絵には署名がなく、作者不明のまま数日後のオークションに出品される。買うべきか見送るべきか判断に悩みつつ、その調査の過程でこれまで疎遠だった娘や孫との絆を取り戻していくというストーリーだ。

 購入するのはそれに価値ありと判断するからであるが、価値の根拠が希薄だったり確実でない場合、どうやって裏をとるのか、とらないのか。ここで買い手、つまり投資家の力量が最初に問われる。この映画では主人公と孫だけがそれが名画だという証しを必死に探し求め、結果、オークション本番で一世一代の大勝負に出る。

 劇中、孫とのやりとりの中で、投資の話が2回出てくる。1度目は孫が、がらくたにお金を出し掘り出し物を探し続ける祖父を負け犬だと罵倒する時。2度目は逆に主人公が、孫の貯金箱を見て、貯金で金持ちになった者はいない、投資をした(先を読んだ)者だけが大きな利益を得ると諭す場面だ。

 投資と費用はまったく違う概念でありながら、見た目はとても似ている。投資は表面的には単なるモノやサービスの購入であることが多い。それを支出と捉えれば費用だが、より大きな収益を将来生むために必要な先行支出と考えれば投資となる。

 安く買って高く売るのが投資の基本であることは言うまでもない。だが、安く買うためには、他の人がまだ気づかないうちにその対象を発見・入手する必要がある。

 これは投資対象が他人の商材(仕入れ)の場合であるが、投資にはもう1種類全く別のものがある。対象が自分自身の場合だ。まだ未熟だが何らかの技術や経験を積んだら、近い将来、自分はそのかけた費用以上のものになる。そう思えるなら自分に投資すべきだ。

 私はこれまでひたすら自分へ投資してきた。他への投資が嫌なのではなく、自分への投資の方がリターンがより確実で後悔がないと納得していただけのことである。一方で投資への考え方は自分のライフステージの中で変化していくものでもある。

 先日、国連による10回目の世界幸福度レポートが発表され、世界149カ国のうち5年連続でフィンランドが1位となった。国民レベルで投資の意味をよく理解している証拠と私は分析した。ちなみに日本は54位である。

 思い返せば数年前、現地観光局から招待を受けフィンランドを訪問した際、政府やサプライヤーの方々とディスカッションする機会があった。自社の強みにフォーカスし、妥協せずその強みを極めようとする姿勢がすべての人に共通していた。パリやロンドンのように、目立つアイコンやランドマークはサンタクロース以外になさそうだが、逆に目に見えないすべてがあるという印象を持った。シンプルに本質を極めようとする姿勢が強い国だ。

 そのフィンランドを代表する映画監督の名作、まだ見ていない方にはぜひお勧めしたい。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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