OTAの取引規制を考える 築けるか宿泊施設との新たな関係

2022.06.06 00:00

(C)iStock.com/maroke

OTA(オンライン旅行会社)が宿泊施設と結ぶ契約条項の見直しが進んでいる。大手OTA3社に公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで行った約3年前の立ち入り検査がきっかけだ。これまでに2社が見直しの詳細を公表したが、一部の契約条項については対応が分かれている。OTAと宿泊施設との関係は今後どう変化していくのか。

 公正取引委員会が独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで大手OTA3社への立ち入り調査を開始したのは19年4月のこと。対象となったのは、楽天トラベルを運営する楽天、ブッキング・ドットコム、エクスペディアのOTA3社だった。調査に至った理由はいずれもほぼ同様だ。

 OTA側が情報を掲載する宿泊施設との間で締結する契約において、宿泊施設が掲載する部屋の最低客室料金や提供する部屋数を、他の販売経路(宿泊予約サイト等)と同等かそれより有利な条件とすることを強い、禁止されている「不公正な取引方法」(独占禁止法第19条)を行った疑いだ。OTAが最安値ないしは同等以上の取引条件で拘束する、いわゆる最恵待遇(MFN)条項は、「不公正な取引方法」の1つである「拘束条件付き取引」に該当するからだ。

 調査に基づき19年7月には公取委が楽天に確約手続きを通知。これを受けて楽天が公取委に提出した確約計画が10月に認定された。ちなみに確約手続きとは18年末に施行された新たな手続き。独禁法違反が疑われる事業活動に対して、事業者が自主的に問題解決する手続きで、提出した確約計画が認定されれば、排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分を回避できる。

 楽天は確約計画として、MFNを取りやめることや、以降3年間に同種の行為を行わないと取締役会で決議すること、こうした措置を宿泊施設や消費者に周知することなどを約束した。

 今年3月にはブッキング・ドットコムも確約計画の認定を受け、確約手続きを済ませた。同社の確約計画でも基本的にはMFNをやめることや、ランキングアルゴリズム等を根拠に掲載順位を上下することで実質的にMFNを機能させることもしないことを約束した。これで調査対象となったOTA3社のうち残るはエクスペディアだけとなった。

 しかし楽天とブッキング・ドットコムの確約計画には取りやめるMFNの内容に違いがある。楽天はMFNの対象となる販売経路に特別な条件を付けていない。これに対してブッキング・ドットコムは販売経路を制限。MFNにはすべての販売経路で提示される宿泊料金等との同等性を求めるワイド型と、(宿泊施設の)自社ウェブサイトで提示される宿泊料金等に限定されるナロー型があり、ブッキング・ドットコムは確約計画にはナロー型を含まないとしており、公取委もこれを認めている。

 公取委はナロー型を除いた計画を認めた理由について、宿泊施設側がこの条件を必ずしも守っていないという認識を挙げ、実害は小さいと説明している。ただしナロー型のMFNが「宿泊予約事業者間の競争に与える影響を注視していくとともに、独占禁止法上の問題が認められる場合には厳正に対処する」とくぎを刺している。

 ナロー型をMFNから除くことを認めるか否かは、国によっても判断が分かれている。ナロー型のMFNに厳しく対応すれば、宿泊施設側のいわゆるフリーライド(ただ乗り)行為につながりかねないというOTA側の主張にも一理あるからだ。フリーライドとは、宿泊予約サイトで情報を得た予約希望者を(宿泊施設側が)自社サイトに誘導して直接予約を獲得すること。ビジネスの根幹にかかわるだけにOTA側も簡単には引き下がれない。欧州でもドイツはナロー型も含めて禁じる判断を示した一方で、フランスやイタリア、英国などは違反行為に含めない判断を下している。

 わずか半年で確約計画の認定に至った楽天と、2年以上の時差が生まれたブッキング・ドットコムや、いまだに確約手続きを済ませていないエクスペディアとの違いは、このナロー型MFNを巡る攻防が背景にあるようだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年6月6日号で】

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