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安売りと差別化の違い

2022年5月30日 8:00 AM

 大学時代に経済学の授業で、若さゆえか当時の担当教授にとても愚直な質問をしたことがある。それは「資本主義の特徴を一言でいうと何ですか」という質問だった。その教授の、明快かつシンプルな回答はいまでも新鮮だ。「資本主義とは自由価格である」というものだ。

 つまり、どんな商品やサービスであっても、売り手がこれと思う値段を、みな自由勝手に値付けしてよい。これが資本主義の根幹であり、重要な点であるという説明だった。あまりにシンプルすぎる回答で、聞いた瞬間、拍子抜けしたように記憶している。

 日本はれっきとした自由主義経済である。基本的にどんな商売であっても、原則として各社自由な価格設定が認められている。ところが不思議なもので、あらゆる業種において実際には価格競争なるもののせいで、意外に「自由な」値付けはできていないのが実情だ。これはマーケティング上、コストリーダーシップあるいは2番手戦略など、価格をどのようにマーケティング上で取り扱うのかが競争優位戦略的に大きな鍵となっているからであろう。

 ユーザー目線で見た場合、まったく同じ商品やサービスなら価格は安い方がいいのは当然である。特に普段使う日用品(買い回り品)においては、いったんこれが売れ筋だと判明するや、あっという間に同じようなデザインや機能の商品が少し安い値段で登場する。百円均一ショップではそれが顕著だ。当然、それに気づいたユーザーは安さを選ぶ。

 この安さ優先の志向はいまだに変わらないようで、よくもここまで真似することができるものかと感心するような模造品も少なくない。実際、楽天やアマゾンなどで欲しい商品を探している際、あまりに同じようなデザインや機能の模造品ばかりが登場して、うんざりすることも多い。

 では、旅行関連サービスではどうだろうか。残念ながら、パッケージツアーなど、もともと差別化が難しいものではこの傾向はまだまだ多いのが実情だ。一方で現地での体験型商品など、個性豊かな商材やサービス提供が可能なジャンルではもっと自由な価格設定が可能であり、模倣による安かろう悪かろうサービスは一般よりは少ないはずと思ってきた。

 だが、調べれば調べるほど、特にメジャーな観光地でのレンタルサービスなどでは似たような料金体系ばかりで、なんの特徴もない普通のサービス内容の会社が多く、がっかりさせられることが多くなってきた。

 そんななか、最近、東京でこれはと思うサービスを展開している企業と出会う機会があった。サービス名もユニークながら、なによりもその高めに設定された価格体系に目がとまり、ずばりその真意を尋ねてみた。すると「競合各社の皆さんが示し合わせたように安いだけで質が悪いサービスを一律で展開されているので、当社はその逆をやってみることにしました」と、とても心地よい答えが返ってきた。

 この会社では提供するサービスに関連する各業界のプロを独自に手配し、徹底的なプロのサービスとしてユニークなサービスを一般ユーザーにも提供。まさに非日常を実感できる内容としている点がユニークである。なにより、まず自分が真っ先に試してみたいと思え、品質に比べて値段は安いとすら感じた。

 自由競争は非常に重要かつ市場成長に欠くことのできない原理である。だが、本当の競争とは差別化にこそあるはずで、似たものばかりの安易な価格競争をしている業界に未来はない。そう実感した出来事であった。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。