2022年5月16日 12:00 AM
広島県尾道市の瀬戸田町で上質な宿泊施設やユニークな観光施設のプロジェクトが相次いでいる。瀬戸内しまなみ海道の観光の拠点としても存在感を高める町で急速に進む官民連携による地域活性化策には、せとうちDMOの戦略が色濃く投影されている。
江戸時代に北前船の寄港地として大いに栄えたという瀬戸田町だが、全国的には無名に近い港町にすぎない。むしろ最近では、「瀬戸内レモン」の産地といえばイメージしやすいかもしれない。瀬戸田町のある生口(いくち)島は国産レモン生産量日本一の広島県を支える主要生産地だ。その瀬戸田の名前が、昨年3月に開業した旅館「Azumi Setoda(アズミセトダ)」によって一躍クローズアップされることになった。世界に冠たるラグジュアリーリゾートとして名高いアマンの創業者、エイドリアン・ゼッカ氏が手掛ける旅館ブランドの初進出の地となったからだ。
旅館開業と同時に、地元住民が銭湯として利用できる別棟「yubune(ユブネ)」もオープン。直後の4月には、しおまち商店街に地域住民と旅行者が集う街のリビングルームとして、宿泊・食堂・観光案内所の機能やラウンジスペースを備えた複合施設「Soil Setoda(ソイルセトダ)」が開業した。地域での開発は今年に入ってからも途切れることはない。休園中だったシトラスパーク瀬戸田を誰でも気軽に安心して楽しめる公園として再生することになり、今年8月にはグランピング施設なども新設したうえで開園する予定だ。島ではドーム型のグランピング施設も開発が進む。
このいずれにも関わるのが瀬戸内ブランドコーポレーションだ。瀬戸内エリアの観光関連事業者への経営支援や事業支援を行い、プロモーションを担うせとうち観光推進機構とともに、せとうちDMOを構成する。尾道市においては、山波町でも地域を代表する老舗旅館「西山別館」の再生も手掛けることになった。瀬戸田のプロジェクトを中心に、尾道市は観光活性化のギアを上げつつある。
一連の動きの出発点となったのがAzumiのプロジェクトだった。豪商屋敷だった旧堀内邸の前オーナーが物件を尾道市に寄贈。その有効活用を図るため、18年度に実施した公募に瀬戸内ブランドコーポレーションとAzumiを手掛けるナル・デベロップメンツが協働して手を挙げ、事業案が具体化することになった。
Azumiの進出決定は人口8000人の瀬戸田町に戸惑いと期待が入り混じった新たな動きを生んだ。瀬戸田は人口減の影響もあり、商店街組合が解散するような状況にあった。尾道市瀬戸田支所の坂本里美支所長は、「世界的な人物のプロジェクトという大波に飲み込まれないよう結束しようとの意識が生まれた」と語る。一方で、ナル・デベロップメンツ側も旅館単体で完結するのではなく、来訪者に地域全体で旅を楽しんでもらいたいというのが基本的な考え。「そういう双方の考えのもと、商店街活性化の機運が高まった」(同)
それを受けて市の未来創客支援事業を活用して設置されたのが、しおまち商店街の活性化を話し合う「しおまちとワークショップ」だ。行政、商店街、Soilを手掛けるしおまち企画など新規開発に関わる地域内外の事業者が参加して毎月会合を開催し、瀬戸内ブランドコーポレーションが事務局を務めた。ここで出た話題は、たとえば規制緩和に関する要望があれば行政として持ち帰り、担当部局と話をする。商店街や民間事業者がコンタクトすべき担当部署を探る手間を省き、いわば役所との間をつなぐハブ的な存在としても機能した。
尾道市商工課の井上尊恵課長は、「商店街の活性化は行政の机上のアイデアではなかなかうまくいかない。むしろ課題意識を地域に投げかけることで地域から良いアイデアが提案され、そこに市の補助金や国の交付金をどう活用していくかを行政として考える。ワークショップを通じて行政がそういう伴走の仕方をしやすくなった」と成果を挙げる。また同じ行政でも、支所は地域に対してよりきめ細かい対応を担い、商工課や観光課は県や国との対外調整を担う形で役割分担も明確化した。
【続きは週刊トラベルジャーナル22年5月9・16日号で】[1]
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