人手不足を乗り越える 課題克服と未来への変革

2022.04.11 00:00

(C)iStock.com/alphaspirit

観光産業で働き手の確保が不安視されている。コロナ禍で旅行需要が急減し、現状ではいまだ需要が少なすぎて問題が顕在化せず、企業に先を見越した人材確保の余力もない。ただ、一部で他産業への流出が進んでおり、需要回復過程での人手不足への懸念が高まっている。

 観光産業の至る所で人手不足への懸念を耳にすることがにわかに増えてきた。そこでトラベルジャーナルは3月、旅行、航空、鉄道、ホテルの各分野の主要大手18社を対象に人手不足に関するアンケート調査を実施した。

 人手不足を訴えたのは、「やや不足している」と回答したホテル1社のみ。最も多かった回答は「まったく不足していない」と「どちらとも言えない」が5社ずつ同数で並んだ。ただし、不足していないとは言えども、回答に添えられたコメントからは、需要と人手が均衡を保った健全な状況とはかけ離れた現状が透けて見える。そもそも需要が少なすぎる、あるいは需要の見通しが立たないため、人手不足を感じることすらできないというのが観光産業の厳しい現状のようだ。

 「観光業界は景気の波に需要が左右されやすいため、人員の過不足が起こりやすい。今後もGoToトラベルキャンペーン等の施策により、需要が著しく低下している地域でも急激に回復する可能性もあるため、常に社会情勢を見極めて必要人員を確保していかなければならない」(アパホテル)、「まん延防止措置が発令されている現状であれば人手不足は発生していないが、コロナの感染が落ち着いてくるとホテルへの来客数が増加し、サービスの質への影響が懸念される」(都内ホテル)というコメントが実情を物語る。

 また、どちらとも言えないと回答した大手旅行会社は、「要員はグループ全体で融通しており、人手不足とまでは言えない状況」としている。大手企業はグループ内での異動や出向で人員のバランスを取っていることも、単純に人手不足とは回答しづらい事情もあるようだ。

 アンケート調査のタイミングが違うだけで結果が大きく変わっていた可能性も高い。帝国データバンクによると、昨年10月に緊急事態宣言が全国的に解除された直後は飲食や宿泊業の人手不足感が上昇。旅館・ホテルの人手不足割合が前月から22.3ポイントも高まった。さらに今年1月下旬の企業の意識調査では、旅館・ホテルの非正社員が不足しているとの回答比率は47.6%と前年同期の16.7%から3倍近くに跳ね上がった。その後、オミクオロン株の感染拡大が進み、宿泊や旅行需要は大きく落ち込むなど環境は刻々と変化。企業の人手不足感もその時々で上下している。

 ただ、今後に不安を抱えているのは間違いない。トラベルジャーナルのアンケートである旅行会社は、「コロナ禍で多大なダメージを受けた観光業界を選択せず、今後人材確保が困難になる懸念がある」とした。また、「業界の先行きに不安を感じている学生が多いためか、エントリーが減少している。母集団確保の取り組みについて課題がある」とコロナ収束後の新規採用に危機感を示す旅行会社もある。

 旅行業界トップも危機感を訴える。JATA(日本旅行業協会)の髙橋広行会長(JTB取締役会長)は新年の会見で「いま一番の問題は人材。必要な人材を確保できるのか、どう人材を回復させるのかを考えていかないと」と問題を提起した。原優二副会長(風の旅行社代表取締役)は現地ガイドなど現場に言及し、「職をいったん離れており、いかに確保していくか」と指摘した。

 OTA(オンライン旅行会社)も悩みは共通のようだ。エクスペディアホールディングスのマイケル・ダイクス代表取締役は「当社も人材不足に陥っている」と打ち明けており、コールセンターをチャットボットでの対応に置き換えるなど、テクノロジーで補完しているという。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年4月11日号で】

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