2022年4月11日 12:00 AM
本稿執筆中もまだ、ウクライナはロシアの攻撃を受け続けている。どう考えても暴挙だが、これを止める力のない国際社会のあり方にもちょっとびっくりしている。世界大戦というのは、こうして始まっていくのだろうなあ。のんびり考えている場合じゃないが。
以前に本稿でもご紹介した『ウクライナから愛を込めて』(2014年・群像社)は、マイベストエッセイ集の1つ。キエフ生まれの著者が柔らかく穏やかな言葉でつむぐ故郷の風景や人々、チェルノブイリの思い出は心を穏やかにさせる言葉の力に満ちていた。
著者は現在キエフで教鞭を執りつつ、ウクライナの文化・歴史を日本や世界に伝えている。彼女の最新刊が2月に発売されたのだが、図らずも絶妙なタイミングになってしまった。
18~20世紀、ウクライナに生まれ波乱の時代を生き抜いた10人の人生を追ったのが本書の内容。ポーランド、ロシア、ハプスブルク家の帝国などの侵略を受け続け、さまざまな「属国」となったこの時代のウクライナ。そんななか、才能や野心に恵まれた登場人物たちは歴史に翻弄されつつも国境を超え夢を追い、偉大な業績を残してきた。ヘリコプターの生みの親イーゴル・シコールスキイ、免疫学者イリヤ・メーチニコフなど、日本では馴染みが薄い人々だが、流転のなかでもくじけないその生き方が、ウクライナ人の強靭さ、国民性を物語っているように思う。
巻末のエッセイ「ウクライナ人にとっての『国境』」も興味深い。今回の戦争で、とある著名人の「ウクライナは早く降伏すればいいのに」という失礼な発言が物議を醸したが、そりゃ降伏しないでしょう、と納得してしまう内容だ。ウクライナという国、そしてウクライナ人を知るのに好適な一冊。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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