ツーリズムのグラスゴー宣言 気候変動対策が本格始動

2022.03.14 00:00

(C)iStock.com/JBryson

昨年11月に開催された国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、観光分野の気候変動対策に関する宣言が採択された。開催地にちなみ、グラスゴー宣言と呼ばれるその内容は、観光産業にとって極めて重要なマイルストーンとなる。

 1.5度。産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇幅がこの値を超えると、人類の生存にとって深刻な影響が出るといわれている。ところが昨年夏、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、上昇幅がこれまでより10年早く、21~40年に1.5度以上に達する可能性があるとの新たな予測を発表した。まさに気候変動への対応は待ったなしの状況となったわけだが、その半年後に示された「観光における気候変動対策に関するグラスゴー宣言(Glasgow Declaration – Climate Action in Tourism)」において、脱炭素に向けた観光セクションの意志はどのように示されたのか。

 気候変動への対応に向けては、1992年に大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標として国連気候変動枠組み条約が採択され、締約国が足並みをそろえて対策に取り組んでいくこととなっている。COPは同条約に基づいて毎年開催されている年次会議で、今回のグラスゴーでの開催が26回目となる。なお、COP26は当初、20年に開催を予定されていたが、新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響を受けて延期となり、21年の開催となった。

 COP26は英エリザベス女王による各国首脳への「言葉だけではなく、行動を」との呼びかけを皮切りに開幕し、計197カ国の参加による2週間にわたる議論の末、最終的に「グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)」を採択して閉幕した。今回のCOP26では、15年採択のパリ協定で「気温上昇幅について1.5度に抑えるべき」としていた努力目標が、公式文書における正式な目標として位置づけられた点が大きな成果として挙げられる。また、石炭使用の削減や化石燃料への非効率な補助金の削減、30年における排出削減目標の再検討・強化について合意を得るなどの成果が得られた。

 一方、先進国と途上国・新興国との対立も目立った。途上国・新興国側の強い反対によって、「脱石炭」をめぐる表現等において内容の後退・妥協が見られ、採択に当たって議長国である英国のシャルマ議長が涙を流す姿もあった。

 このCOP26の中で、観光分野における気候変動対策への今後10年間のアクションに向けたコミットメントとして発表されたのが、グラスゴー宣言である。民間企業、国際機関、NGO、学識経験者を含む多様な関係者の参画の下で草案が作成され、その後、国連世界観光機関(UNWTO)、国連環境計画(UNEP)、スコットランド観光局等から成る起草委員会で検討・作成された。

すべての関係者を団結させる公約

 「われわれは、観光を変革し、効果的な気候変動への行動を取るため、すべての関係者を団結させるという共通のコミットメントを宣言する」

 これは、宣言の冒頭に記載された宣言文である。宣言では、観光分野のCO2排出量を30年までに半減、50年までに実質ゼロにすること、気温上昇を1.5度以内に抑えることを掲げている。なお、ここでの宣言主体はCOPのような国・政府に限らず、宣言の内容に賛同したすべての観光関係者となっており、観光に携わる民間企業や組織、政府・地方自治体など多岐にわたる組織が署名を行っている。

 署名団体は、宣言に記載された5つの観点(測定、脱炭素化、再生、協働、資金)から成る取り組み事項に沿った計画を策定し、提出する必要があるほか、今後より具体的な気候変動に対する対策を実施していくなかで、計画で定めた目標に対する進捗状況や活動内容について毎年公開情報として報告を行うこととなる。署名は専用のウェブサイトから無料で行うことができ、報告要件を順守しない場合は宣言への加盟が取り消されることがある。一方で、計画に記載する目標は努力目標であり、目標が達成されないことによって加盟が取り消されることはない。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年3月14日号で】

中島泰●公益財団法人日本交通公社観光地域研究部環境計画室長・上席主任研究員。1979年生まれ。財団法人日本交通公社入社後、官庁・自治体の各種観光計画・戦略策定支援を担当。2012年から観光地の利用と保全のバランスに配慮した持続可能性指標の導入に関する実践的研究に取り組む。

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