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地方の考えを変える

2022年3月14日 8:00 AM

 感染収束を視野に入れ、観光業の再起動について具体的な検討が始まっている。観光庁の22年度予算にもそのことが表れるが、観光庁ではすでに「アフターコロナ時代における地域活性化と観光事業に関する検討会」や「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり検討委員会」が設置され、複数回の会議が開かれている。

 公開されている議事概要から活発な検討が行われている様子がうかがえるが、国内需要の喚起をするにしろインバウンド需要の復活を図るにしろ、魅力的な観光資源の発掘とアナウンスメントが肝要であり、地方がその鍵を握っているという前提は共通しているようだ。

 その考え方はよしとしても、ひとつ気になるのは、民間企業の役員と教育機関の学識者によって委員が固められていることだ。良く悪くも、結果的には補助金や助成金が絡んだ施策が打ち出されることになるが、地方公共団体のメンバー抜きではどんなに優れた打ち手も実行の段階でつまずきかねない。実際のところ、地方の行政府のピントのボケぶりには目を覆いたくなるものがある。

 2月に開催された全国知事会で、女優佐々木希さんの出身県のS知事は、コロナの感染拡大防止のために「いま対策が必要なのは学校だ」と強調して政府に全国規模の休校措置を取るべきと意見した。発言当時、同県の入院者数は82人で重症者数0人という医療逼迫とは無縁の状況であるにもかかわらずである。この県の総額6000億円の予算のうち県税は1000億円しかなく、事実上東京都からの地方交付税2000億円と国庫支出金800億円に大きく依存した財政状況になっている。

 仕事を持つ親の経済活動制約につながる学級閉鎖を全国的に行えば、自分の県の歳入の多くを占める都と国からの歳入に悪影響が及ぶという因果関係を理解できないのだろうか。同県の人口は13年以降毎年1万3000人超のペースで減少を続け、昨年94年ぶりに95万人を割り込み世田谷区と同じ人口となった。年齢別人口割合は、年少人口と生産年齢人口の割合が減少の一途で、老年人口は3人に1人を超える。

 同県の首長にとって、日本全体の経済を活発に動かすこと、県の経済活動を拡大し生産年齢人口の流出を防ぐことは最重要の政策課題のはずだが、現実は老齢者の老齢者による老齢者のための政治を行っている状況だ。こうした財政や人口傾向は多くの地方県に共通しているにもかかわらず、首長は次の選挙のことしか気にしておらず、高付加価値なインバウンド観光地とか地域活性化とか地方創生をどこまで真剣に考えているか疑問がある。

 観光業繁栄のために地方が鍵となり、地方再生のために観光業が鍵になるという理路は正しいとしても、中央で頭脳と知恵を結集するだけでなく、地方の政治家の考え方を変えるか政治家自体を変えない限り、絵に描いた餅になりはしないか。

清水泰志●ワイズエッジ代表取締役。慶應義塾大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)入社。事業会社経営者を経て、企業再生および企業のブランド価値を高めるコンサルティング会社として、ワイズエッジとアスピレスを設立。