Travel Journal Online

地方創生はまず人から

2022年1月31日 8:00 AM

 オンラインでの商談会で、ある地域で活躍されている地元名士の方と知り合う機会があった。ぜひリアルでお会いしたいと思い、その地域のみならず、やや広範囲に、これまでいつか行ってみたかった地方都市を盛り込んだ旅を企画した。今回はその道中で実際に起きた出来事から、地方創生の真の壁と鍵について考察してみたい。

 その地方とは日本三景に近いとある小さな町である。せっかくなのでそのありがたい風光明媚な景色も久しぶりに拝もうと、初日はその近辺で一番立派そうなホテルに宿をとった。事件はそこで起こった。

 OTA経由で直前予約した宿だったが、チェックインまではスムーズに行えた。問題はその後だった。19時前の到着でそろそろ夕食をと思い、近くにレストランなどあるかフロントで聞いてみたところ、隣に1軒だけあるという。なぜ1軒だけと疑問に思いつつも、荷物を部屋に置いて、すぐにそこに出向いた。がらんとした狭い店内で、1人である旨を伝えると、今日はあいにく予約で満席という。目の前にお客さまはほぼ誰もいない状態なのにである。30分もあれば自分の食事は終わると言おうとしたが、やめて店を後にした。

 ホテルに戻り、館内にあった大きなレストラン入り口で案内されるのを待つことにした。だが、待てど暮らせど誰も対応してくれない。スタッフが皆、見て見ぬふりなのだ。

 ようやく1組のお客さまが会計のために席を立ったところでマネージャーらしき人が入り口に来た。会計が済んだ後、やっとこちらを見てくれたそのマネージャーに、1人である旨を伝えたが、けげんそうな顔をしてこう言ったのだ。「一般の方のお食事はお受けしておりません」と。いやいや、自分はこのホテルの滞在者であると鍵を見せて伝えると、今度はなんと「予約のない方はお断りしております」と言う。そんなこと、どこにも書いてないが、と言おうとしてやめた。

 やむなくホテルの外を散策、なんとかコンビニらしき店を発見。が、チェーン店ではないためか、おにぎりもサンドイッチもなかった。やむなく、カップ麺とおかきの夕食となった。それ以外にはまったく開いている店はなかった。夜19時、日本三景のお膝元での出来事である。

 このことを翌日、その地元名士の方に話してみた。するとこういう答えが返ってきたのだ。「いまの彼らにはおもてなしの観点はないのです」と。驚いた。地元の人でさえ、この実態はご存じだったのだ。ここまで日本の旅行にかかわる現地でのメンタリティーは落ちてしまっていたのかとがくぜんとした。

 往々にして有名観光地ほどこの傾向はある。ハワイなども以前はそうだった。あまりに日本人が大量かつ頻繁に来るので、対応が動物園の餌やり状態に近いものになっていた店もあった。今回のケースはかつて有名観光地であったもののあまりに人が来なくなり、開き直ってふんぞり返っているとも思える。時代は変わったのだ。

 唯一救われたのは、その名士の方から振る舞われた、ちらし寿司風のランチであった。その宿特製だという。女将自ら毎回新鮮な素材を直接買い付けるという。とても上品で心に残る味だった。道中、ハワイにも負けないすばらしい海の絶景も見ることができ、商品造成の大きな可能性を強く感じながら帰路に就いた。

 ビジネスは人が生み出す。場所でも風景だけでもだめで人が肝心である。素材に魂を吹き込むのは人だ。このビジネスの第一原則をかみしめる旅となった。翌朝、名士の方のご恩に必ず報いる覚悟で、さらにローカル線の旅を続けた。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。