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リベンジ消費

2022年1月17日 8:00 AM

 コロナの流行が小康状態を続けるなか、リベンジ消費への期待が高まっている。リベンジ消費とは、購買行動を抑え込まれていた消費者が、これまでの穴埋めをするかのように多額の支出をすることを意味する。

 だが、リベンジ消費が起きると考える論拠は、「人はお金が余っていると消費に回したがる」「人はお金を使うことをがまんしていると、その反動で散財したがる」という俗説に過ぎない。状況証拠として、強制貯蓄が20兆円積み上がっている、高級外車や高級腕時計が売り上げを伸ばしている、一足先にコロナ禍を抜け出した中国では個人消費が一気に回復している、東日本大震災2年後から可処分所得を超える消費が行われた、という事実はある。

 しかし、日本でコロナ禍の収束とともにリベンジ消費が起きると経営判断することは危険だ。理由の1つは中国を引き合いに出す意味がないこと。中国の自国通貨建て1人当たり実質GDPを見ると、19年実績と21年推計値で約12%増加している。一方、日本は逆に約2%の減少となる。中国は経済成長が続き個人所得も伸びているが日本は経済成長も個人所得の伸びもない。

 東日本大震災後のリベンジ消費も、13年は11年に比べ約4%増加していることが現在との違いとしてある。人が消費にお金を回すには、ストックの増加は十分条件に過ぎず、それ以前にフローの増加という必要条件がある。

 その証左として、今後の消費動向に関する複数の調査でも、コロナ禍以前のレベルまで支出を戻そうと考える人は極めて少ないという結果が出ている。理由として、ワクチン接種後も感染症に対する不安が大きいことを挙げる分析も見受けられる。だからこそ、政府は各分野でワクチン・検査パッケージの技術実証を進めているのだろうが、やや的外れな気がする。

 むしろ、野村総合研究所が調査結果の分析で述べていることに注目すべきだ。「コロナ禍以前の生活の無駄が排除された生活様式に慣れたことを、コロナ禍以前の生活に戻らない理由として挙げている。(中略)コロナ禍で半ば強制された行動変容(生活のデジタル化)によって意識や価値観も変わってしまった」

 観光業界ではGoToトラベル再開への期待が高まるが、ここまで給付金や助成金にサポートされ、起爆剤としてまた政府の金に期待するということに他ならない。仕方ないとはいえ、リベンジ消費への期待も含め、経営が外部環境頼みになりすぎていることは否めない。

 その結果、厳しいことを言うようで恐縮だが、自らが進むべき道について考え抜くことを怠っているきらいがある。家計動向と不可逆的な消費者の意識変容を踏まえ、DX云々の話にとどまらず、いまこそ自助努力による変化について考え知恵を絞るべきではないか。

清水泰志●ワイズエッジ代表取締役。慶應義塾大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)入社。事業会社経営者を経て、企業再生および企業のブランド価値を高めるコンサルティング会社として、ワイズエッジとアスピレスを設立。