2022年1月3日 12:00 AM
コロナと共生する3年目の年が明けた。コロナ禍はこの2年で人の移動を前提とするツーリズムのビジネスを消滅させただけでなく、私たちの生活や意識を大きく変転させた。社会・経済システムはグレートリセットを迫られ、ツーリズムもその例外ではない。
19年12月に中国・武漢で原因不明の集団肺炎が報告され、20年1月には日本国内で初の感染者を確認。同月、世界保健機関(WHO)が緊急事態を宣言してから、コロナのパンデミックが世界を覆うまでに多くの時間は必要なかった。あれから丸2年、人の移動を前提とするツーリズムは世界中で厳しく制限され、とりわけ国境をまたぐ国際ツーリズムは一時期完全に消滅した。日本ではいまだに観光目的の海外旅行を再開できぬままだ。
国内でも長距離移動を伴う旅行は感染をばらまく不要不急の遊興と忌避され、鉄道、バス、宿泊、旅行といった国内ツーリズムのインフラを支える各業態は経営に深刻すぎるダメージを受けた。
観光・旅行事業者はオンラインツアーやマイクロツーリズム、あるいはワーケーション、グランピングといったコロナ禍を回避できる新規事業領域への進出を試みた。しかし旅行・宿泊の両事業を全体としてみれば事業継続が困難になったり、人員整理を伴う事業縮小や店舗の統廃合に取り組む事例も目立つようになった。総合大手旅行会社とされてきたJTBや日本旅行が数十億円単位の減資に踏み切り、税制上の中小企業としてサバイバルを図る姿は象徴的だ。
ツーリズム分野では休廃業・解散といった市場からの退場も加速した。中小旅行業者などが加盟する全国旅行業協会(ANTA)の21年6月時点の正会員数は20年6月の5565社から136社減少して5429社となった。海外旅行業者主体のJATA(日本旅行業協会)正会員も20年4月の1193社から21年10月時点で1120社に減少している。
世界がパンデミックに揺れるなかでも、地球規模で起きている気候変動には待ったなしの対応が求められる。特に欧州諸国は二酸化炭素(CO2)の排出抑制に厳しい規制を制度化している。例えばフランスは21年7月、鉄道で2時間30分未満で移動できる国内航空路線を22年3月までに廃止することを決定。近距離移動を航空機利用から鉄道利用にシフトする姿勢を明確に打ち出した。
オーバーツーリズムから地域の住民を守るためにレスポンシブルツーリズムの機運も急速に高まる。コロナ禍以前からオーバーツーリズム対策として外国人旅行者の受け入れを制限するスペインのバルセロナだけでなく、オランダも観光戦略について量から質への大転換を打ち出している。
日本では小康状態を保つコロナ感染状況だが、世界では変異株であるオミクロン株の出現と共に感染拡大が再発する。ドイツでは11月中旬に新規感染者数が初めて6万5000人を超え過去最高を更新。ロシアでは11月4日に1日当たりの死亡者が1200人に迫り過去最悪となった。WHOは欧州地域のコロナ禍の状況について、22年3月までに70万人が新たに死亡し累計死者数が220万人を超える可能性があると指摘した。
日本でも再流行の可能性は排除できない。感染拡大の第1波から第5波までを経験し、終息への期待を裏切られ続けてきた国民の警戒感も解消していない。博報堂生活総合研究所が予想する22年のヒット予想のキーワードも「動かず、動かす」。同研究所は、生活者が22年以降もコロナ禍の影響は続くという警戒感を解いていないと分析したうえで「生活者は『動かず=小さな動き、効率的な働きかけで/動かす=大きな充実や喜びを引き出す』商品やサービスに注目している」と説明する。世界を覆うコロナ禍の暗雲は22年も完全に取り除かれることはなさそうだ。
コロナにより中止となったが、昨年の世界経済フォーラム(WEF)年次総会では地球規模の危機を乗り越えるため、社会・経済システムの抜本的転換を促す「グレートリセット」を会議テーマに据えた。現在の社会・経済システムは第2次世界大戦以降に長い時間をかけて構築された基盤に立脚しており、経年劣化もあってさまざまなひずみや問題が顕在化している。
【続きは週刊トラベルジャーナル22年1月3・10日号で】[1]
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