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観光業界キーパーソンの21年回顧と展望①

2021年12月20日 12:00 AM

トラベルジャーナルが観光業界のキーパーソンに実施した「21年のニュースランキング」に関するアンケートから、自由記述欄の回答を紹介する。ニュースランキングの結果は週刊トラベルジャーナル21年12月20・27日号[1]で。

「21年も新型コロナウイルスに振り回された年となった。この2年間で生活者の価値観、行動様式は大きく変化し、デジタル化も大きく進んだ。コロナが終息してもこれらがすべて元に戻ることはないだろう。旅行会社もこれまでと同じことをしていては対応できない。生き残りに向けた努力が続くなか、ポストコロナに向けた新たなビジネスモデル構築の成否が、22年以降の旅行業界の新たな勢力図を形づくっていくことになるだろう」

「新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、観光業界の脆弱性と顧客の意識変化、ライフスタイルの変化が起きた。持続的な衛生対策のための観光業界全体のエコシステムの構築、脱炭素社会への対応など、待ったなしの社会課題に関する議論も一層強まっていくだろう。観光業というビジネスを再定義していく必要がある。コロナが与えた歴史的な転換点に突入するなかで、従来の観光業界の常識を見直す時代に入っていく」

「22年は日本の海外旅行市場をどのように復興させ、中長期的に発展させていくのかという建設的な議論が業界内で活発になることを期待する。最近の欧米における入国制限緩和の報道を見ていると、海外との人流や健康リスクに関する消費者のスタンスが日本人とは決定的に違うことを痛感する。その市場特性を受け入れたうえで、政府の方針は民意を反映するという前提のもと、旅行業界が一丸となって一般消費者への働きかけに取り組むべきだ」

「脱炭素や脱プラスチックなど環境問題に対応することが世界規模で社会的責任を果たすことと見られるようになり、地域経済活性化や長期滞在などと併せて、コロナ禍でいままで以上に業界と来訪者の双方の意識が高まっている気がする」

「コロナ禍も2年目に入り、旅行業界も茫然自失の状態から解決策の模索が始まってきたように思う。ワクチン・検査パッケージも地方振興もオンラインツーリズムもそれぞれの解決策だろう。次は、それらの解決策の中から何が生き残り、ポストコロナの旅行業の流れをつくっていくのか、当事者の1人として注視していきたい」

「ポストコロナも観光客が戻ったとしても、国内とインバウンドはますます個人旅行化が進む。事業領域をいくら広げても従来の会社規模は維持できない。これを契機に価値創造産業へ舵を切るべきで、旧態依然としている社員は不要となってしまう。JR東日本やJTBが店舗の見直しをするが、この20年来何ら進化のない着地型だけを目指しても何ら変わらない」

「DMOが12団体取り消しになったが、DMOの予算事業に群がり、サステイナブルな観光の発展を考えない刹那的ビジネスはそろそろ止めにしてもらいたい」

「日常生活にもマイレージを付与する動きは、航空会社が運輸機関から総合生活産業へ脱皮する証し。魅力のあるキャリアに顧客は囲い込まれ、旅行会社はますますキャリアからも顧客からも相手にされなくなる」

「SDGs達成に向けた変化は大きな潮流だ。企業はESGの視点で経営変革が求められるとともに、消費者においてはエシカル消費の視点から旅行先や旅行形態を選ぶ層が拡大している。観光コンテンツ・地域資源とSDGsとの関連を深堀りすることが、まさに観光地や観光事業者の持続可能性に関わる時代が訪れている。小さな施策の積み上げとともに、根本的な経営ビジョンへの反映が必要だ」

「修学旅行や遠足行事の多くが中止・縮小となり、子供たちの体験学習の機会が奪われただけでなく次世代の顧客を失うことは、旅行・観光業界にとって将来に影響する巨大な損失。留学などリアルな交流が減ってしまったことも含め、長期的な視野に立った旅育の復活が望まれる」

「新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響により、観光産業が受けた影響は極めて大きく、特にサービス産業が中心の地方においては地域経済全体の悪化につながっている。観光地が市場からの評価を受けるためには安心・安全が重要なキーワードであることから、観光産業全体として、日頃から感染対策のみならず自然災害などの危機を想定した危機管理に取り組むことが重要である。また、観光産業のデジタル化を推進し、生産性向上に努めることも不可欠だ。観光産業を支える観光人材の量の確保と高度人材育成も欠かせない」

「こんなにも生き延びることが大変な時代が来ようとは、全く想像していなかった。生き延びるだけでなく経営基盤の脆弱性を克服する新たな事業展開の必要性を痛感するが、残念ながらまだその答えは見つかっていない」

「観光業界への打撃は、個々の努力ではとても対処できないほどだった。教育旅行も取りやめや内容・方面の変更が相次いだ。特に教育旅行での民泊・生業体験プログラムを実施していた農村漁村家庭の受け入れ停止が拡大したことが気になっている。新学習指導要領の実施を見据え、生徒の貴重な学びの機会として学校のニーズが増えていただけに、ウィズコロナのなかでいつ再開されるのか、コロナ前と同じように受け入れてもらえるのか懸念される」

「とにかく最悪な1年だった。コロナ禍で人の心が分断されるなか、観光産業として共感や支持を得ることができなかったこと、メッセージを出すことができなかったこと、何年もかけて積み重ねてきた努力が水泡に帰してしまったことは残念でならない。コロナ禍で観光に知見と理解のない所管大臣を持ったことは不幸でしかなかった。空白の2年間を埋めるべく奮起を期待したい。また、国土交通省、観光庁、観光関連団体には失った時間利益を取り返すべく寝食を忘れて努力奮闘することを希望する」

「海外旅行を主たる事業としている旅行会社やランドオペレーターに対して、国からの必要な支援が得られているとは感じられない。GoToトラベルの恩恵を得られない旅行会社もあること、GoToトラベル事務局やワクチン接種会場の受託業務などは大手は可能であっても中小は単独ではできない。未曽有の危機にもっと業界が一致団結して乗り越えるべきではないか。支援が行き届かずにこぼれ落ちる会社がないことを願う」

「コロナ禍が長引くなか、20年に引き続き21年は非常に厳しい1年になった。こうしたなかで東京オリンピック・パラリンピックが当初予定より1年遅れとなったものの無事開催されたことは、明るいニュースだったと感じている。今後はワクチン・検査パッケージなどを通じて、来訪者とそれを迎える事業者、地域住民、医療関係者など、さまざまな分野の人たちが協力し合い、コロナで傷んだ地域経済をリカバリーしていく必要がある」

「観光業界は地獄の1年だった。旅行業者や宿泊業の休廃業・解散には心を痛めた。しかし、そのなかで大手・中小とも事業領域を拡大するなど、さまざまなできることに挑戦したことは注目される。しかし、なるほど!この手があったか、と驚きと喜びの新商品・新事業は登場しなかったように思える。観光ビジネスはレジリエンス(困難にしなやかに立ち向かい生き延びる力)が必要だとあらためて強く思った1年だった」

「コロナ禍はわれわれに多くの教訓を残してくれた。また、この機会に業務のあり方や働き方、価値観の意味など、変革のチャンスとなった。企業の収益もサービス産業以外には大きなプラスをもたらし、産業構造の見直しが始まっている。観光産業も消費者からの信頼を得るために、うわべだけのSDGsに捉われることなく、本質的な取り組みを開始することが重要なのではないか」

「人流の抑制を求められた緊急事態宣言の長期化は、据野の広い観光産業にとっては広範囲かつ長期間にわたって影響を受けた。できるだけ早い観光支援策の再開により、地域や観光業界全体の観光インフラの回復を期待する」

「サステイナブル関連の話題が他業界に比べて少ないなと感じた。ツーリズム業界としても今後はサステイナブルに関する関心・意識を高めていきたい」

「ワーケーションやマイクロツーリズム、アドベンチャーツーリズム、持続可能な観光など、コロナ禍で多くの新たな概念が出てきたが、需要創造の動きが見えにくく、受け皿整備においても需要に合わせた新たなサービス創出はあまり進んでいないように感じられる。厳しい環境下において、業界全体でこれらの振興が進むことを期待する」

「新型コロナの影響が予想以上に長引いた。東京五輪の判断も含めて、目に見えない世論(空気感)との戦いを強いられた1年だった」

「近年の観光業界では、AISAS的な顧客モデルでシェア(共有)や口コミの広がりを引き出す施策が行われてきた。SNSやデジタル化はコロナ禍で強化されたものの、当面はシェアがはばかられる雰囲気もあり、軌道修正が必要かもしれない」

「ワーケーションはいまの旅行業界都合で進み続けていては業界の内側だけのトレンドにとどまって終わる。外からの目線で顧客価値を見直さないと市場はできないだろう」

「旅行業者はコロナ禍で仲介業が衰退し、地方創生的な部門の立ち上がりが加速した。ただ、基本的にはBtoGの受託・補助事業狙いでの営業が増えただけで(DMOへの営業も増えた)、市場の広がりがないままにパイを取り合う構図に陥っている。BtoB、BtoCでの自主事業の立ち上げをしないとジリ貧になっていくだろう」

「市場消滅という経験のない一大事。ここでツーリズム産業の骨格を立て直し、本質を問うことができなければ産業全体の再浮上はありえない。創造的破壊のラストチャンスと思うべき」

「印象的だったのは、コロナ禍でも密を回避しマナーを守って、新たな楽しみを探して旅行をしようとする日本人のクリエイティブな姿。あらためてヒントは市場にあると感じた。一方、コロナは旅への渇望を強めたが、密回避に慣れた旅行者が今後、地域や観光サービスを見る目は厳しくなる。回復する需要を待つだけでは彼らの満足度は得られない。いままで以上に旅行者の声に耳を傾ける必要性が増してくると思う」

「これほどまでに観光産業の根幹を問うことになった時代はなかった。人の交流、にぎわい、コミュニティー形成が観光の役割だとすると、文化(行政だと文化庁)や自然(行政だと環境庁)との関わりがより必要になる。これまでの観光の枠組みに捉われない各地域との新たな関係性の構築、領域拡大の必要性を感じている」

「国際観光の復活こそ真の観光再生なので、それが叶わなかったのは残念。五輪は無観客で残念だったが、五輪のおかげで首都東京のアクセシビリティー(障がい者向けインフラ)は世界水準になった。コロナ後に確実にプラス要因になる。コロナの打撃で観光業者の撤退が顕在化したが、コロナ後に確実に人材不足が生じ、人材獲得競争になる。同時に観光人材の置き換えの過程で、異質な結合によってイノベーションを誘発するか注目」

「今年もコロナ禍に振り回された1年だった。昨年との違いは、その影響でさまざまな変化が生まれていること。市場撤退もあったが、新市場開拓には官主導の規制緩和も後押しした。一方、コロナで成長したデジタル業界の観光産業への進出も目立った。物議の多いスーパーシティ、IR、SDGs、ヘルス、新モビリティもDX絡みで、ニューノーマルの大義名分が進むなか、アドベンチャー・キャンプ市場が活況というのは懐かしい旅の復権のような気もする」

「コロナ禍で観光の考え方が大きく変化している。リモート環境が整備され、仕事のあり方も多様化しているなかで、特に地方はイノベーションが求められている」

「観光業がコロナで打撃を受けているなか、エアトリ等は黒字を出している。構造改革を進めなければならない」

「コロナ禍を乗り切ることと、アフターコロナのマーケットに向けた試みを同時進行しなければならない。経営者の能力が試される」

【あわせて読みたい】21年回顧と展望②[2] 21年回顧と展望③[3] ニュースで振り返る2021年[4]

Endnotes:
  1. 週刊トラベルジャーナル21年12月20・27日号: https://www.tjnet.co.jp/2021/12/19/contents-111/
  2. 21年回顧と展望②: https://www.tjnet.co.jp/2021/12/20/2021review2/
  3. 21年回顧と展望③: https://www.tjnet.co.jp/2021/12/20/2021review3/
  4. ニュースで振り返る2021年: https://www.tjnet.co.jp/?p=15942