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先人の失敗に学ぶ

2021年12月20日 8:00 AM

 私は歴史、特に世界史が大好きである。人類3000年の知恵が凝縮されていること、すなわち過去の偉人の失敗から先回りして学習させてもらえるというメリットが、とてもありがたく感じられるからだ。なかでもローマ帝国の興亡はとても興味深く、その子孫たる現代のイタリア人には、祖先とかけ離れている点もあれば、いかにもその子孫だろうと感じさせてくれる点もあり、人間の楽しさや愚かさ、素晴らしさが凝縮されている。

 久しぶりにイタリアの知人を訪ねるため、夜行バスに揺られて国境を2つ越え、イタリアに入った。週末2泊3日の旅で大事なイタリアの友人3人に会えたが、どの友人もこのコロナ禍による苦境にもかかわらず、果敢に独自のコンセプトで次を見据えるビジネスを画策していたのには実に感嘆させられた。

 1人目の友人は、ローマで長年の旅行ビジネスを離れ独立系コンサルタントとしてしっかり自立していた。ケーススタディーを教えるMBAとはまた違った心理学的手法を用い、人それぞれの長所を引き出すコーチングの才能をフルに開花させていた。酒も入っていたとはいえ、ディナー会食にしては、周りの客席から何度も振り向かれるほど楽しく激論を交わした。

 2人目の友人は、フィレンツェで長年ビジネスをしてきたローカルキラーの現地会社社長だ。15年前の最初の出会いをいまだにしっかりと覚えていてくれており、当時からなんの偏見もなく真摯に話を聞いてくれて、すぐに取引開始となったのが印象的だ。彼は今後、自分がどうすべきか、なぜそう思うかを切々と語ってくれた。お前はどう生きるのだとも聞かれ、こういう人が世界を変えていくのだと強く感じた。

 最後の1人は、すでにローマを離れ、ルーマニアで半分引退しつつも新規ビジネスを検討していた。現役時代は大手エージェントの現地責任者を務めた。それにもかかわらず当時からとてもストレートに商売の話を是々非々で聞いてもらえて、大変ありがたく思ってきた。

 3人は全員イタリア人である。つまりローマ帝国の子孫といえる。彼らイタリア人の素晴らしさは3つある。

 まず1つ目はどんな人間にも平等に接しようとする態度だ。これはローマ帝国拡大期のパックスロマーナの伝統そのものである。制覇したから押し付けるのではなく、占領した地域の人々の言い分もしっかりと聞く。その結果、最も早く双方の最適解の発見につながる。これを祖先から精神的DNAとしてしっかり引き継いでいる。

 2つ目は明るさである。どんな苦しい時も真剣なまなざしはするが、死にそうな顔をみせない。ラテンの乗りといえばそうだが、これは物事を必ず解決しようとするローマ市民の真面目なチャレンジ精神そのものだ。

 最後に最も大事な素養、つまり失敗から学ぼうとする自己批判の精神だ。1人目のコンサルタントは答えを押し付けるのではなく、クライアント自らに考えさせることの大切さを、2人目の社長はコロナ前に業績拡大で大成功していた油断ゆえ、十分な備えなくしてコロナで完全なジリ貧になってしまったことから事業の多角化を、そして3人目の元大手企業の現地トップはイタリアこそがすべてという発想そのものを捨て、あえてコストセーブできる隣国で戦略的に戦う意義とメリットにセカンドライフすべてをかける覚悟を持っていた。

 人生は短い。いつ、どこで、何で勝負するか、それこそがすべてである。先人(歴史)は偉大な先生である。活用しない手はない。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。