業界も歓迎するクルーズ新ブランド

2021.12.06 00:00

 コロナ以前のクルーズ業界で注目を集めたのは20年に新規参入する2つの異業態のブランドだった。コロナの終息が期待される現在、業界メディアは再びこの話題を取り上げている。

 ヴァージン・ボヤージュの11万トン、最大船客2770人、クルー1160人の中型船スカーレット・レディは、20年春の就航予定が18カ月遅れ、今年10月6日マイアミからメキシコ、カリブ海への初航海に出発した。船客を定員の50%に制限している。

 ヴァージンの基本コンセプトは船客18歳以上限定、ドレスコードなし、オールインクルーシブ方式で、新しい自由なクルーズライフを目指してさまざまな新基軸を提供する。最大のテーマは海で、船内のどこからも海が見える構造設計である。ヴァージンでは船客をセーラーと呼ぶ。広大なメインダイニングルームとビュッフェを廃止し、韓国焼肉、メキシコ料理など20以上のレストラン・バーで、街場の食堂と同じように好きな時に好きな食事・ドリンクを楽しめる。また、クルーズでは初めてのレコードショップとタトゥースタジオを開いた。流通に関しては旅行会社の販売力に期待して手数料16%を確保する。こうした個性を尊重した中型船クルーズがどう評価され、クルーズのあり方に影響を与えるか興味深い。

 ヴァージンは計4隻の投入を計画しており、第2船ヴァリアント・レディは来年3月、第3船レジリアント・レディは7月就航予定である。

 一方、リッツ・カールトンのクルーズ船エヴリマは2万6500トン、全室テラス付きスイート149、 船客298人の高級仕様ヨットで、リッツ・カールトンホテルの伝統的サービス提供を掲げている。20年2月の就航予定だったが、建造が遅れている。初航海期日はすでに何度も変更しているが、この8月に5回目の変更で、22年5月8日リスボン発、カサブランカ、タンジェ、マヨルカ経由バルセロナまでの11泊の航海を発表した。

 コロナ禍の影響はあるが、同時に建造を発注したスペインの造船会社の経営問題が原因といわれる。20年3月のトラベルウイークリーは、リッツ・カールトングループは財政支援を含め、造船所の経営に直接参画していると伝える。予約した船客ばかりか、業界からも批判の声が出ている。このシリーズはさらに2隻の就航を計画する。

 同じツーリズム産業とはいえ、異分野のそれもすでに国際的ブランドとして確立している企業の新規参入について、10月のトラベルウイークリーは大手船会社の反応を伝えている。ロイヤル・カリビアン・クルーズの社長は、「1998年のディズニーの参入はクルーズ供給量(船客受け入れ数)を2%増やしたが、需要(クルーズ購入船客数)は10%伸張し、新規参入は市場の注目を集めるメリットがあった。われわれの本当の競合はクルーズ会社間ではなくて、ホテルやリゾートなど異業種との顧客の奪い合いである」と述べている。

 また、カーニバル・クルーズ・ラインの社長は、「クルーズは全世界の旅行者のほんの一部しか取り込んでなく市場拡大はまだ十分に期待できる」としている。業界大手が新規参入を歓迎するのは、クルーズ市場がまだ発展段階で、さらに成長の可能性を秘めているという認識からであろう。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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