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『新版 いっぱしの女』 少女小説の先達が感じた社会の違和感

2021年12月6日 12:00 AM

氷室冴子著/筑摩書房刊/770円

 『なんて素敵にジャパネスク』というタイトルに記憶があるアナタ、さては昭和の乙女ですね?

 著者は平安時代のお姫さまが活躍する同書はじめ、1980~90年代にベストセラーを連発し、その後長い闘病生活を経て2008年に51歳で亡くなられた。等身大の女の子の物語は児童文学とも一般小説とも違う“少女小説”として女の子たちの大切な友人だった。

 今年の夏に復刊された彼女のエッセイ集が話題を呼んでいる。

 「あなた、やっぱり処女なんでしょ」。作品の内容から勝手にイメージし、無礼な言葉を投げかける男性編集者。

 「どうして女性は簡単に“わかる”という言葉を使うんだろう。“わかる”という共感に、よりかかりすぎてしまうんだろう」という大学教授の言葉。

 「そういう怒りかたするとこみると、ほんとに男をしらないんじゃないの。おれでよかったら、相手してやるよ」。編集者の言葉に言い返せず悔しい思いをしていたが、セクシャルハラスメントという言葉の登場で多くの同胞が傷ついているんだとひとりうなずく。

 当時30代でひとり身、しかも前人未到なジャンルの仕事をする女性が社会にどんな違和感を感じていたのか。鋭いが軽やかな筆致で人の言葉や情景をすくい取る文章はまったく古びておらず、ああ、この人は本当に女性の味方だったんだなと痛感する。思えば当時の女性漫画家たちも働く女性やジェンダー問題を描いていて、ペンを武器に世の中に立ち向かってくれていたから、今のわれわれの居場所が確保されてきたのだと感謝しかない。ああ、それなのにいまだジェンダーギャップ指数先進国最低レベルのわが国よ……。

 働く女性すべてにおすすめしたい、心がすがすがしくなるエッセイだ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。