ネタバレ世代

2021.11.15 08:00

 近年、学生に目立つようになってきた傾向がある。ネタバレを好むという点だ。講義を受ける際、かつての学生は予習などしなかった。しかし、最近はしなくてもよいのに講義資料を事前に欲しがり、きちんと予習してくる。まじめになったという先生もいるが、そうではない。正解を頭に入れてから授業に臨みたいという方が正しい。動画配信型の授業では、すべて視聴して答えを知ってから問題に回答するので皆が同じ答えを書く。

 映画やドラマを見る際は、ネタバレサイトを事前に見たり、クチコミを読んだりして、ストーリーや結末を知ってから視聴する。友人にサプライズで誕生日プレゼントを贈る時も複数の選択肢の中から選んでもらう。それではサプライズでも何でもないと思うのだが、選んでもらうこと自体がサプライズになっているからよいのだそうだ。ネタバレ世代の心理には、失敗したくないという意識がある。ドキドキするより安心したいという思いが強い。

 これは正解は1つと教え続ける日本の受験教育にも問題があるのかもしれないが、加えて、SNSの普及に原因がある。友人間のネットワークで流れてくる魅力的な写真。これらを追体験することで経験を共有し、つながりを強めていく。いまや若者は情報を検索エンジンではなくSNSで検索するので、初体験より追体験が多くなる。追体験とはすでにあるものをなぞる作業であり、よかったという体験の上書きであるがゆえに失敗も少ないというわけだ。授業も映画も、そして観光も他者の体験や正解を追うことが日常となっていく。

 その結果、彼らが行く旅先はどんどん狭まり、集中していく。群馬でいえば草津温泉にしか行かなくなる。他を知らないためだ。コロナで一層この傾向が強まった気がする。

 緊急事態宣言が明け、各自治体で県民割が始まったいま、さぞかし混んでいるだろうと温泉地に行くと、当然のように満館の宿がある一方で、週末でも空室が目立つ宿もある。小さな宿はまだ休業していたりする。つまり、需要が集中する傾向が高まっている。

 SNSがあらゆる生活者の必需品になりつつあることも背景にあるのではないか。すなわち、県民割をやろうとやらなかろうと、新需要は利用者によって二次創作され生まれていく。昨年、GoToトラベルキャンペーンが一部の宿に偏り不公平だという話題があったが、もう一度やっても同じ結果になるだろう。それは価格の高低ではなく、SNSを日常活用している世代が多い宿に集中すると思うからだ。自社で発信するのではなく、あくまで利用者が発信するアーンドメディアとしてSNSが集客に大きく効く時代になったと感じる。

 すなわち、若い世代が多い宿ほど繁盛し、年配客中心の宿は苦戦する。SNSの効果を過大視しすぎかもしれないが、少なくともそう遠くない将来にはそんな時代がやってくる。

井門隆夫●高崎経済大学地域政策学部教授。旅行会社と観光シンクタンクを経て、旅館業のイノベーションを支援する井門観光研究所を設立。16年より高崎経済大学地域政策学部観光政策学科准教授。19年4月から現職。将来、旅館業を承継・起業したい人材の育成も行っている。

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