アドベンチャー旅行を攻める 発展と課題解消のキーワード

2021.11.08 00:00

(C)iStock.com/kapulya

欧米の富裕層を中心に一大市場を形成しているアドベンチャートラベルを日本で普及させる動きが本格化している。北海道などが牽引役となって環境整備に取り組み、今年に続き23年の世界サミット開催も内定するなど、機運が高まる。一方で課題も鮮明になってきた。

 今年は日本のアドベンチャートラベルの記念すべき年となった。世界100カ国1400会員から成る同分野最大の団体、アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)が年1回開催する世界大会「アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット2021(ATWS2021)」が北海道で9月20~24日に開催されたからだ。コロナ禍の影響でオンラインによるバーチャル開催となったものの、05年に始まったATWSの歴史で初めてのアジア開催となった。58カ国・地域から600人以上が参加し、成功裡に終了。クロージングセレモニーでは、ATTAから23年大会の開催地に再び北海道が内定したことも発表された。北海道と道内の官民20団体で構成するATWS2021北海道実行委員会が23年の再誘致に向け、アプローチを続けてきた努力が実った。

 あらためてアドベンチャートラベルとは具体的にどのような旅行を指すのか。ATTAによると、「アクティビティー、自然体験、異文化体験の3つの要素のうち2つ以上の要素で構成される旅行」と定義されている。言葉からイメージされるアウトドアスポーツはあくまでもアクティビティー(身体的活動)の1つにすぎない。一方でイベントや祭り、食、風俗・習慣の体験、史跡見学、異言語学習など異文化体験も必須の構成要素であることから、アドベンチャーという語感と文化体験のイメージがうまく合致せず、定義をわかりづらいものにしている面がある。

 しかし、世界サミットに先立つ9月8日に開催されたキックオフシンポジウムで、パネルディスカッションに登壇した国土交通省北海道運輸局の水口猛観光部長は「大切なのは心が冒険すること」と説明。身体的体験や文化的体験によってもたらされる心の冒険こそが本質であるとした。

地域自体が楽しまなければ

 日本をリードしてきた地域は北海道だ。北海道はデスティネーションとして適していることもあり、他の地域に先駆けて取り組みをスタート。16年のATWSアラスカに初出展すると、翌17年にはATTAの公式地域イベントを札幌で開催するなど、積極的に機運醸成に取り組んだ。これと並行して17年には、北海道運輸局の後押しにより、受け入れや誘致事業などを担う組織として北海道アドベンチャートラベル協議会(HATA)を設立。現在は北海道アドベンチャートラベルマーケティング戦略検討会が昨年まとめた戦略に基づき施策を進めている。

 北海道の戦略の5本柱の1つに挙げられているのが機運醸成だ。この点を重視するのは、売るための体制づくりや商品造成、PRや差別化などの下地として、地域が前向きに取り組む機運が不可欠だからだ。10月14日に日本アドベンチャーツーリズム協議会(JATO)が開催したオンラインシンポジウムに登壇した北海道経済部観光局の中島竜雄アドベンチャートラベル担当部長は、優れた商品を企画・造成して受け入れ体制を整えるには地域との協力・連携が欠かせないことを指摘。そのうえで、「道内179の市町村の中には、観光に力を入れる地域もそうでない所もあり温度差が大きい。熱心な地域でもアドベンチャートラベルの認識不足がある」との認識を示した。まずは熱心な地域、次いで他の地域にもアプローチする2段階の取り組みを考えているという。

 地域側における機運醸成の重要性に関する指摘はキックオフシンポジウムでもなされた。北海道アドベンチャートラベル協議会の荒井一洋会長は、「旅行者は本物を望む。地元の人々が楽しんでいない内容では魅力を感じてもらえない。そういう意味で道民自体が日常的にアドベンチャートラベルを楽しむ環境づくりが大切。ツアーをつくるというより、地元の人々が楽しんでいる日常生活をお裾分けすることに価値がある」と指摘した。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年11月8日号で】

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