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プロボノ 地域愛を育む新たな関わり

2021年10月25日 12:00 AM

(C)iStock.com/Csondy

社会を向上・発展させる力として注目が集まるボランティア。なかでもプロボノへの期待は各分野で高まり、観光分野でも活躍の場が広がろうとしている。地域の観光振興に新たな風を吹き込むだけでなく、地域愛を育む新たな関係づくりの視点からも要注目だ。

 プロボノの力を借りて地域社会の課題を解決する取り組みが観光分野でも活発になってきた。東京都産業労働局は今年度、観光分野における初の試みとして、プロボノ人材を起用して観光に関する課題の解決に取り組む新事業を立ち上げた。東京都にある5つの観光協会・観光コンベンション協会が事業に応募。プロボノが参画したプロジェクトが始まっている。一方、観光庁は地域課題に関わるプロボノが関係人口拡大の糸口となり得る点に着目。ポストコロナを見据えた新たな市場開拓事業の1つとして、市場としてのプロボノを意識した取り組みを始めたい考えだ。

 プロボノは、ラテン語で「公共善のために」という意味を持つ「Pro Bono Publico」が語源とされる。いわゆるボランティアだが、あえてプロボノという名称を使って区別するのには理由がある。ボランティアは、社会や公共のために自分ができることを自発的に差し出し無償で提供する人や活動全般を表す言葉だが、労働力を無償提供するイメージが定着している。自然災害の被災地などで支援活動をするボランティアの姿がたびたび報道され、そのイメージが根付いている。また地域住民の一員として休日を使ってイベント運営や町内会の組織活動に無償で奉仕した経験を持つ者は多く、ボランティアのイメージ形成につながっている。いずれも善意の支援者として労働力を差し出す行いだ。

 しかし、プロボノは、差し出すものが労働力というよりは、本人が仕事や経験を通じて培ってきたスキルやノウハウである点が異なる。ボランティアの中でも、職業上の専門知識を生かして公共に貢献する活動や人々をプロボノと称する。活躍の場は自分の専門分野であることが基本であるため、本人の日常や本業とつながっており、継続しやすい側面も指摘される。

 もともとは米国で使われ始めた言葉で、弁護士たちが無償の法的サービスに取り組んだ活動がプロボノの原点とされる。米国ではその後、弁護士や医師からメディア関係者やプログラマー、デザイナー等々の幅広い分野の専門家たちに広がっていった。日本でもプロボノへの取り組みが最も進んでいるのは法曹界で、弁護士のプロボノが定着している。たとえば、第一東京弁護士会は00年に会規・会則で公益活動をすることを会員の基本的義務とし、国選弁護や当番弁護士、法律扶助等を公益活動に位置付けている。さらに07年には犯罪被害者や障害者の権利擁護活動などのプロボノを公益活動に位置付けている。

 日本におけるプロボノ組織の先駆けとして05年に活動を開始した認定NPO法人サービスグラントによれば、プロボノ参加登録者はサービスグラントがNPO法人化を果たした09年は実人数で312人だったが、10年647人、12年1011人と倍々で増加。20年の6363人まで右肩上がりで増えている。しかし、日本では認知度はまだ低く、活動分野も限られてきた。プロボノという言葉がテレビや新聞などで頻繁に取り上げられた10年をプロボノ元年とする声もあるが、そこから10年が経過し、ようやく観光分野でも取り組みが始まっている。

活動資金難を補填する一手にも

 東京都と東京観光財団は地域が主体となって取り組む観光まちづくりを推進しているが、都内の観光協会等が抱える課題解決に向けて新たな取り組みを開始した。それがプロボノ人材を活用して支援する観光まちづくりサポート事業。観光協会等が抱える運営上の課題を解決するため、プロボノのスキルやノウハウを活用した支援を行うことで、団体の基盤強化や観光を通じた地域の活性化につなげるのが狙いだ。また、東京都産業労働局は、「観光協会は活動資金に課題を抱える面があり、プロボノ活用なら可能性が広がる。新しい形の支援を考えるなかで取り組んでみることにした」(観光部振興課)と付け加える。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年10月25日号で】[1]

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル21年10月25日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2021/10/24/contents-103/