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デジタルの勘違い

2021年10月25日 8:00 AM

 00年頃、初代ITブームといわれた時期、グーグルは産声を上げたばかりであった。キーワードによる検索という手法を、まだ人々が使いこなすチャンスがあまりなく、ヤフーに代表される百科事典のような索引型の検索が主流だった。いまや索引型サービスを使う人はほとんど見掛けなくなった。

 グーグルがここまで世界中のネットビジネスを独占するようになるとは、当初は誰も予測できなかったように思う。何が勝因だったのか。それはコミュニケーションの「周り」を押さえ込むことで、ネットビジネスの覇者になるという大きな「目標(ゴール)」を最初にしっかりと決定したからだと私は分析している。

 あらゆるものをデジタル化する。邪悪にはならない。最初はこの2つを大きなコミットとして落とし込み、人々がコミュニケーションツールで1番よく使い続けるであろうものにまず目を付け、集中して、その周りを1つ、また1つと制覇していった。つまり最初はメールソフトから、そして次にブラウザー、地図、さらには写真というようにだ。

 対するアマゾンは流通するものの中で最もネットに「乗せやすい」ものから攻めた。それが本であった。そして、物流各社ができていないECの弱点を自社の強みとするべく、無料配達、翌日配達へとサービスの質を上げていき、その上で本以外の生活用品へと攻め進んだ。彼らにとって本は、デジタル化で変えられる未来への近道、きっかけの素材に過ぎなかったのである。

 日本にデジタル庁なるものができた。欧米諸国ではそれに似た省庁を持つ国もあるが、日本より1周も2周も先を行っている。例えば15年時点で、英国ではオンラインだけで1時間ほどで会社の設立が可能であった。フランスはデジタル化以前に、すべての政府系承認は1年単位で時間がかかるのでこれは別次元の問題だ。ルクセンブルクは最も進んでいるほうで、保健省はコロナ検査もワクチン接種もすべての住民(移民含む)に対して実施記録などのデジタル管理を実現している。経済省や移民局も共通の政府系プラットフォーム上で、ほとんどすべての申請や承認を実施可能だ。フォームもすべてオンライン上で記載でき、紙に出合う機会はめったにない。

 日本のデジタル化は各省庁でバラバラに行われ、とても不便であるのは有名なことだ。オンライン上での文字は小さい、視点移動も不自然、マニュアルがあってもまともに動かない代物も多い。一体どうやったら、こんなに面倒・複雑・不便極まりないものができるのか不思議で仕方がない。恐らく、簡潔化という割り切りができないからなのであろう。本来の開発の力を違う方向に出させてしまった結果、宝の持ち腐れとなってしまった例だ。

 これは政府だけの話ではない。あらゆる会社で仕事のための無駄な仕事が実に多く、かつ小さな企業よりむしろ大企業がその傾向が強いように思う。それは目的を最初にちゃんと確認しないまま、やれデジタルだ、やれネットだのと騒ぐからだ。ネットやデジタル、これらはただの道具、つまりハサミなのだ。使う人の使い方次第でどうにでもなってしまう。

 政府が作ったアプリが問題ばかり起こすのも、大企業の作った金融システムがこけてばかりいるのも、最初にしっかりと目的(ゴール)を決めなかったからだ。それは事業創造とも似ている。世界のユーザーに何で勝負(貢献)するか。そこが曖昧だった企業で、世界制覇を成し遂げたネット企業はいまだにない。すべてはここにヒントがある。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。