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『チ。-地球の運動について- 第1~5集』 地と血と知が重なり合う強力なメッセージ

2021年10月25日 12:00 AM

魚豊著/小学館刊/650円

 2世紀にプトレマイオスが唱えた天動説。15世紀にコペルニクスが説いた地動説はキリスト教への異端とされ、17世紀にガリレオやニュートンらが証明するまで迫害は続いた。

 いまとなっては常識だが、キリスト教が絶対的な権威を持っていたヨーロッパで、神の世界に異を唱えることはありえないこと。地動説に限らず、異端審問で拷問を受けたり火刑に処される人も多かったとされる。

 そんななか、地動説はどうやって時を超えつながれていったのか、その人間模様をフィクションで描いたのがこちらの漫画だ(巻頭いきなり異端審問の拷問場面だし、イタそうな話が苦手な方は心してかかられよ)。

 将来を期待された神童、俊才の修道士など、優れた頭脳を持っていたからこそ天動説の不自然さに疑問を抱いた人々が、「合理的だ」「美しい」と、危険を知りながら地動説に魅了されていく。真実の持つ力は彼らだけでなく、周囲をも巻き込み人生を動かす。

 自分を卑下して生きていたオクジーは、手が届かないと思っていた天界が「地球と調和している」と地動説から学び、初めて星空やこの世を美しいと感じる。天文研究所で働く少女ヨレンタは、女性に禁じられた学術研究をこっそり進めるうち地動説に出合い、危険を侵し研究に力を貸す。

 「文字はまるで奇跡ですよ」

 文盲のオクジーにヨレンタは「知」の力を説き、文字を教える。そう、タイトルの「チ」は地動説の「地」で、同時に禁断の真実を求めた人々の「血」、そして人の心を自由にする「知」だ。

 力強い描線で強いメッセージを訴えてくる、ずっしりした読み応えの作品だ。コミックは累計100万部突破、マンガ大賞2021で第2位を獲得している。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。