地域の感染対策と観光再開モデル Win-Winの体制づくりへ

2021.10.11 00:00

(C)iStock.com/Masafumi_Nakanishi

政府が日常生活の回復に向けた行動制限緩和に歩を進めるなか、これに先んじて一部の地域で観光再開への取り組みが始まっている。独自の安心・安全モデルを確立し、観光客の受け入れを急ごうというものだ。ニューノーマル時代に第一歩を踏み出した地域の試みに注目した。

 政府は9月9日、新型コロナウイルス感染症対策本部がまとめた「ワクチン接種が進む中における日常生活回復に向けた考え方」に基づき、行動制限を緩和していく方針を打ち出した。ワクチン接種や検査を受けた者は県をまたぐ移動について自粛要請の対象に含めないとしたのに加え、接種・検査とそれを証明する「ワクチン・検査パッケージ」を活用して観光振興策の実施を検討するとした。希望者の多くにワクチンが行きわたる11月頃からの行動制限緩和を目指した実証実験も模索。実験場所を提供する都道府県では、北海道、埼玉、愛知、大阪、福岡など有力自治体が名乗りを上げている。

 政府方針を受けて赤羽一嘉国土交通相は、「今後、自治体や事業者の方々との議論を含め、国民的な議論を踏まえて、どのように観光を進めていくのか具体化を図っていくためのものと承知している」と述べ、内閣官房等と連携して具体策の検討を始める考えを示した。国としてウィズコロナに向けた動きがようやく始まった形だ。

進化する妙高モデル

 こうした国の動きに先んじて、地域では感染症対策と観光再開へ向けた独自の動きが始まっていた。その代表的な事例が新潟県妙高市だ。いち早く昨年、感染症対策と観光再開を両立させる「妙高モデル」を確立しようと取り組みに着手した。昨年9月に妙高市で開催された「新型コロナウイルス感染症を克服する新たな日本の観光地域づくりシンポジウム」で入村明市長は、「妙高ならいつ来ても安心して訪れることができ、訪れて本当に良かったと思って帰り、リピーターとして戻ってきてくれる環境づくりに邁進したい」と妙高モデルが目指すところを述べた。

 地域でのかじ取りを担うのが地域DMO(観光地域づくり法人)の妙高ツーリズムマネジメントだ。妙高モデルの特徴は、DMOを中心に市民を主役として地域全体の感染症対策を進め、安心・安全な観光地妙高を構築していこうという試み。このコンセプトのもと、入村市長はシンポジウムで「新型コロナウイルス感染症を克服する新たな日本の観光地域づくり」宣言を行い、市として推進する意志を明確にした。それとともに市民・観光事業者・市役所が連携した感染防止プロジェクトの結成や、DMOと地域医療機関の連携による独自の感染症対策ガイドラインの策定に着手した。

 妙高モデルは、受け入れ側の観光関連事業者と市民、訪れる側の旅行者の双方が感染防止策を講じることが基本だ。その徹底に向け、受け入れ側ではガイドラインに基づいた観光関連事業者への査察、合格施設に対する合格証の交付やDMOホームページでの公表、宿泊・飲食店等に2週に1回の全従業員の抗原定性検査に取り組んでいる。査察はすでにDMO会員全施設に1回目の査察を昨年完了しており、2年目の今年は2回目の査察を実施中だ。また市民と来訪者に対しては、チラシの配布や市報での情報発信を通じて健康管理アプリ「COCOA」の加入促進を図っている。

個人旅行者にも抗原検査導入へ

 こうして感染防止の基盤が一定程度整ったことから、新たに開始したのが旅行者に対する抗原定性検査だ。旅行前後に健康管理アプリを活用した健康観察を行い、旅行中は抗原検査を行うことにより、トータルな感染予防体制を築いていきたい考え。地域内の事業者連携による新しい旅のスタイルを普及・定着させる観光庁の21年度の実証事業に採択されており、まずは団体旅行者を対象に開始した。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年10月11日号で】

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