価値はプロセスに宿るか

2021.10.04 08:00

 早いもので今年も残り4分の1を切った。年末といえば、どれほどテレビ離れが加速したといわれようと大みそかに放送されるNHK紅白歌合戦の注目度は高い。例年通りのスケジュールであれば、来月半ばには出場歌手や司会者が発表される。その顔ぶれを予想する話題でタイムライン上はそろそろ賑やかになりそうだ。

 さて、紅白でとりわけ注目されるのは初出場組である。すでにミュージックシーンではおなじみの顔が満を持して登場する場合もあるが、その年に大きく躍進して出場を決めるニューカマーは特に耳目を集める。昨年末でいえば、前者はJUJUやBABYMETAL、東京事変。後者は瑛人やmilet、それに9人組のガールズグループNiziUが挙げられる。

 そのNiziU。紅白の出場以降、今年に入ってからの「活躍」は伸び悩んでいる。もっとも動画サイトでの再生回数やCD売り上げ、話題を集めた縄跳びダンスの社会的認知状況など昨年の「活躍」自体が、メディアの先導した大仰な「疑似ブレーク」との捉え方が大勢を占める。そうなると、それまで以上の「活躍」を期待するどころか、話題づくりを維持することさえも困難であるのは疑いの余地がない。そのような状況は新刊で売れ筋となったプロセスエコノミー、その成れの果てといえる。アーティスト発掘企画のプロセスで話題になったものの、その後はプロセスほどに注目されることがない。

 時代を振り返れば、この現象は言葉が違えど定期的に繰り返されていることがわかる。舞台をテレビ番組としたものだと、「テラスハウス」「あいのり」などのリアリティーショー、「電波少年」「ガチンコ!」に代表されるドキュメントバラエティーが当てはまる。一部の例外を除けば、プロセスを歩んできた主体への注目が継続することはなく、一過性の創作されたブームを経ると再浮上することはほとんどない。

 このプロセスエコノミーなるものは近年地方創生の文脈でも注目されているようだ。関係人口の拡大施策を実行するうえで、取り組みの過程を開陳し社会と共有することで地域の応援団を形成するのに有効と考えられている。他の自治体との差別化に有意だそうだ。確かにさまざまな主体による共創は不可避であるし、理想への共感が広がること自体には大いに期待できよう。

 ただし、どれほどその概念や言葉がはやっているからといって、制作過程を見せれば何でも目標達成に直結するかというと疑問が残る。小手先ともいえる手法にこだわるよりも、プロダクト自体に興味を持ってもらうことが重要ではないか。もとよりプロセスがおもしろくても、アウトプットの質が低ければ本末転倒である。

 キャンプ場でわいわい言いながら皆でつくったカレーが美味しく感じられることはあっても、自らの関与がなくそのようなノリでつくられたものが販売されていたら食指が動かない。全体のクオリティーが底上げされることが担保されるものでなく、サボタージュの成れの果てで優れたコンテンツをつくることのできない主体によるポジショントークと理解する方が肝要と考えるに至った。

 地方創生策のプロセスに応援団がついたとしても、その地域自体のファンであるのかはわからない。それに、サバイバルオーディションやクラウドファンディングのようにプロセス自体をエンタメとして盛り上げようにも、「デビュー」した時にすでにエンタメの「ゴール」に達してしまう懸念すらある。やはり、量産されるコンテンツとは一線を画す存在との認識が必要だろう。他方、まだまだ界隈をうろつく訳知り顔は量産され続いているのだが。

神田達哉●サービス連合情報総研業務執行理事・事務局長。同志社大学卒業後、旅行会社で法人営業や企画・販売促進業務に従事。企業内労組専従役員を経て現職。日本国際観光学会理事。北海道大学大学院博士後期課程。近著に『ケースで読み解くデジタル変革時代のツーリズム』(共著、ミネルヴァ書房)。

関連キーワード