Travel Journal Online

東京オリパラ総括 ツーリズムに何をもたらしたのか

2021年10月4日 12:00 AM

(C)iStock.com/Grafner

東京オリンピック・パラリンピックが9月5日に閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大により1年延期となったが、それでも感染拡大は収まらず最終的に無観客開催を余儀なくされた。果たしてオリパラはツーリズムに何をもたらしたのだろうか。

 20年のオリパラ開催地が東京に決定したのが13年9月。招致活動を象徴する「オ・モ・テ・ナ・シ」のフレーズと共に、開催決定のニュースが日本中を沸かせた。最大級の国際イベントの招致成功に観光・旅行業界も沸いた。本誌13年12月23・30日号「キーパーソンが選んだ13年ニュースランキング」でも「2020年の東京五輪開催が決定」が圧倒的な1位となった。業界からは「五輪開催決定は日本における観光産業の今後の発展に大きな可能性をもたらすことは間違いない」「東京五輪招致成功のインパクトにはすさまじいものがあった」「ここからの7年間がインバウンド業界で最も重要であると感じる」など、大きな期待が感じられるコメントが寄せられた。開催決定から実際に開催するまでの7年間は、観光・旅行業界にとっての希望に満ちあふれた期間として「黄金の時間」と表現された。

 東京オリパラに期待が高まった理由の1つが12年に開催されたロンドン大会の成功だった。ロンドン大会では1080万枚の観戦チケットが販売され1037億円を売り上げた。日本市場に当てはめるとプロ野球1球団の4~5年分のチケットを約1カ月で売り上げる巨大イベントの経済効果はただでさえ大きいが、ロンドン大会は特に開催効果をうまく引き出した事例とされる。日本スポーツ振興センターによると、ロンドン大会の経済効果は当初「4年間で110億ポンド」とされたが、わずか14カ月で達成し、16年時点では142億ポンドの経済効果を上げた。観光面でも12年以降16年までに約350万人以上の誘致効果を発揮し21億ポンドの追加消費をもたらした。

 大会開催によるロンドンや英国の国際的認知度の上昇効果も目覚ましかった。ロンドン大会は08年から「カルチュラル・オリンピアード」と題した大規模な文化プログラムをロンドンを含む英国全土で開催し、計4300万人が参加。ロンドンや英国の魅力発信を強化した。その結果、世界都市総合ランキング(森記念財団)によれば、ロンドンは12年以降9年連続で1位の座に就いている。また英国は世界経済フォーラム(WEF)の観光競争力ランキングで11年の7位から13年には5位に順位を上げた。オリパラ開催は観光・旅行ビジネスへの直接的な経済効果が期待できるだけでなく、国家プロモーションやシティプロモーションにも絶大な効果を発揮し得るという認識は、ロンドン大会を経て一段と強まった。

 しかし、コロナによって事態は暗転する。開催が約半年後に迫った20年初めにはコロナウイルスが世界で急速に拡大し、3月には世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言。東京オリパラも開催の是非が検討されることになった。当初は通常開催を主張していた国際オリンピック委員会(IOC)は、20年3月30日に大会開催を21年夏に延期すると発表した。

 大会延期による影響について、第一生命経済研究所は延期によるマイナス影響を、開催年だけでGDPベースで約1.7兆円、経済波及効果を約3.2兆円失うとした。また関西大学の宮本勝浩名誉教授は延期の経済的損失を約6408億円と試算した。

 延期だけならまだしも、結局、コロナ禍が収まらないまま大会を迎えたため、文化プロジェクトの多くが中止、全国約400の自治体が誘致した各国の事前キャンプも断念せざるを得なくなった。オリパラ効果を日本の各地域に波及させようという計画は軒並み頓挫した。

 さらに大会開幕のわずか15日前の7月8日に1都3県での開催はすべて無観客にすると発表され、その後、福島や北海道での競技も無観客開催となった。これでチケット販売収入である1010万枚分、820億円が水の泡と消えた。チケット販売収入を含め、無観客開催による経済損失は1468億円(野村総合研究所)と試算された。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年10月4日号で】[1]

【あわせて読みたい】五輪とツーリズム[2]

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル21年10月4日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2021/10/03/contents-100/
  2. 五輪とツーリズム: https://www.tjnet.co.jp/2020/07/19/contents-42/