夏の旅行で欧州の業界再始動

2021.09.27 00:00

 欧州では5月に新型コロナウイルス新規感染者数が減少してワクチンの接種数が増え、厳しい規制は徐々に緩和、夏の旅行に人々の関心は一挙に高まった。6月に欧州連合(EU)は域内の渡航制限を緩和し、ワクチン接種を完了した渡航者には検査や隔離を免除することを決定した。7月1日からはEU加盟国間でいわゆるワクチンパスポートの運用が始まった。

 旅行販売サイトには欧州内、地中海、クルーズ、そして国内旅行の商品が並んだ。他方デルタ株の置き換わりで新規感染者数は増加傾向にあり、送客国・受け入れ国の措置や制限は複雑に変化し、ドイツの入国時の規則も8月に改められた。

 旅行大手のTUIが8月12日に発表した第3四半期事業報告書(4~6月)から、コロナ禍での経営の現状と夏の休暇旅行の見通しを見てみる。旅行制限が緩和された5月に旅行ビジネスは再始動したと判断している。5月には夏のバカンス旅行に150万件の予約が入り、第3四半期中に今夏の旅行予約は420万件に上り、好調な再スタートが切れた。特にドイツと欧州大陸市場の需要は高く、英国市場は7月中旬から上向くと推定。平均販売価格はパッケージツアー部門が増えたため19年夏期比で9%ほど高い。

 オンライン予約傾向は52%と強まり、顧客とのコミュニケーションもデジタル化。ツアー客の7割が同社アプリを利用した。人気のデスティネーションはマヨルカ島を含むバレアレス諸島、ギリシャの島々、特にクレタとロードスであった。国内旅行およびTUIクルーズのクルーズ旅行、グループのホテルブランドのRIUとTUIブルー、ロビンソンの需要も強い。283軒のTUIホテルが営業し、8隻の自社クルーズ船が有客で出航した。

 財務状況はパンデミック下で初めて3.2億ユーロのキャッシュフロー黒字を記録し、転換社債や不動産売却などのリファイナンスは順調に進んでいる。フレデリック・ジョーセンCEOは今夏の販売は19年夏に比べ6割にとどまるが、需要は継続的に高く好調なスタートが切れたと述べている。

 ドイツ政府が発する旅行警告は渡航禁止ではないが、旅行予約を左右する。デルタ株拡大のため旅行警告を8月初めに改定した。コロナ関連の旅行警告「リスク地域」は「ハイリスク地域」と「異種株まん延地域」の2種があり、地域の指定は政府が決めてロベルト・コッホ研究所が発表する。リスク地域への旅行者は帰国前、新設された入国ポータルでデジタル入国登録しなければならない。

 ハイリスク地域から帰国し入国する際には接種証明、回復証明、陰性証明のいずれかが必要で、10日間の自主隔離が課される。証明がデジタル入国登録で判明できた段階で隔離は免除される。異種株まん延地域(8月25日時点で該当なし)からの帰国者は接種と回復証明では不十分で陰性証明は必須となり例外なく14日間の自主隔離となる。ハイリスク地域は増えつつあり、スペインのバレアレス諸島は7月27日に、8月にはギリシャのクレタ島や南エーゲ海、トルコ、北米、ドミニカ、ケニアといった人気休暇地に旅行警告が発せられた。再スタートを順調に切った旅行業界だが、異種株との攻防はまだまだ続くようだ。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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