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『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』 その人生と名言の数々にホロリ

2021年9月27日 12:00 AM

白石あづさ著/文藝春秋刊/1815円

 清らかな人なんだな。

 読了後の尾畠さんへの感想だ。

 18年、行方不明になった2歳児を発見し注目を浴びた尾畠春夫さん。一躍時の人となったが、特に生活を変えることもなく、80歳を超えた今もマイペースでボランティアに励んでいる。

 いい人だろうけど、ひと癖ありそう。

 勝手な先入観があったが、3年間彼に取材した本書を読み考えを改めた。

 1939年、下駄職人の三男として生まれた尾畠さんは、貧しい生活でろくに学校も通えないまま奉公に出されるなど苦労が続いたが、夢を諦めず魚屋を開く。65歳で店を畳んだ後はボランティアに没頭。年金5万5000円で暮らし全国飛び回る日々が始まった―。

 彼の人生や今の一風変わった暮らしぶりを追った「ルポ」と、名言が並ぶ「ことば」の章が交互に並び、徐々に無私の人・尾畠さんの魅力が染みてくる。「(子育ては)手を出すな、口を出すな、目を離すな」「人間ほど悪くて最低な奴はいない」「観光のことを言うからには、街もきれいに」といった経験から出る言葉の重みや、2歳児を見つけた時の息詰まる再現など、笑ったり、ホロリとしたり、胸を打たれたり。変に自分の解釈や意見を加えず、彼の言葉や態度をそのまま受け止める著者の姿勢もすがすがしく気持ちがいい。

 昭和の時代は近所にこういうおっちゃんがいたっけな。世話好きで人んちの垣根を直したり、ごみを拾ったり、お年寄りに声かけしたり。こういう地域の潤滑油は現代は居場所を見つけるのが難しいが、尾畠さんもそういうおっちゃんの一人なんだと思う。

 「お天道様は見てる」。コロナ禍で疲弊するなか、尾畠さんの心からの言葉はきっと今まで以上に心に響くはず。元気が出る1冊です。超オススメ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。