ワクチン接種を低開発地域でも

2021.09.13 00:00

 早い段階でワクチン接種を開始した欧米を中心に国同士の往来が再開されるようになっている。日本で猛威を振るうデルタ型が欧米でも広がり完全解決とはいかないが、ツーリズムの回復の動きがみられるのは喜ばしい。そうした状況下、単純にコロナ前に戻るのではなく、より良いツーリズム産業を目指すべきという記事を紹介したい。

 報じられていたのはワクチン接種の公平性という問題へのツーリズム産業としての取り組みの必要性である。世界保健機関(WHO)によると低開発国で1回でもワクチン接種した人は人口の1.1%に過ぎない。すなわちワクチンの配分を巡る不公平性はまったく改善されていないということだ。

 ツーリズム産業も回復を実感しつつある欧米と必要なワクチンが手に入らず困窮が続く地域とで二分される状態が生じている。ツーリズムが本当に回復するには、多くのデスティネーションを提供しツーリズムの重要な当事者である低開発地域でも先進国と同様にワクチンを接種できるようになることが不可欠だ。国連世界観光機関(UNWTO)がリヤドで開いたツーリズムリカバリーサミットで、ジャマイカの観光大臣は世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)やUNWTOなどが産業を代表してより強いメッセージを発する必要性を訴えた。

 WTTCシニアバイスプレジデントのバージニア・メッシーナはすでにIATA(国際航空運送協会)やPATA(太平洋アジア観光協会)とワクチン配布について相談していると報告した。こうしたなか、オーストラリアに本社を置くイントレピッドトラベルは公正なワクチン配分のためのキャンペーンを開始する。イントレピッドは世界中の英語圏市場を対象に現地発着型の専門性の高い小規模グループツアー中心にビジネスを展開、その分野で世界最大とされる。キャンペーンは旅行先地域の住民へのワクチン教育と接種への障害克服の2本立てだ。

 同社CEOのジェームズ・ソーントンは、欧米市場から集客しアジア、アフリカ、中南米などに送るが、送り先地域のほとんどはコロナについて安心でも安全でもないとする。世界を相手にビジネスを展開するオペレーターとしてそうした地域を少しでも安全にするため、より多くのワクチン入手や教育などを推進する責任があるとしている。

 同社ペルー事務所はマチュピチュへのトレッキングのポーターと家族がワクチン接種できるようクスコから接種会場まで宿泊付きで送り出した。さらに地元政府と交渉し接種会場をポーターが多く住むカルカ近くに設営させた。結果、7月までワクチン接種を済ませたポーターはいなかったが、8月には80%が済ませ、8月出発のツアーは催行できた。他の22の海外事務所でも同様の取り組みを開始する。

 さらに最近、エクスペディアが国連児童基金(ユニセフ)と共同で「世界にワクチンを」というキャンペーンを始めると発表した。同社のアプリを使って予約する人が簡単に寄付を行いユニセフのワクチンプログラムを支援できる仕組みだ。

 発地域だけでなく受け入れ地域にもワクチンが行き渡らない限り国際交流の真の回復は進まない。記事はツーリズム産業の主要プレーヤーがワクチンの不公平な配分を正すために積極的な役割を果たすことを求める。果たして日本はどうだろうか。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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